第三百四話
エゥーゴとティターンズvs宇宙海賊の皮を被ったニューオーダーの戦いが注目してきたが、宇宙海賊の活発化で最も被害を受けているのはネオ・ジオンである。
ジオンの後継者であることから一年戦争の被害者が多いアースノイド主義者には文字通り親の仇なのだから当然といえば当然だ。
サイド3で起こった同時多発テロに続いて宇宙海賊の活発化による航路の不安定化、更に連邦による関税処置によって物価の上昇、これらは一年戦争前に行っていた連邦による圧政を彷彿とさせるのに十分であった。
そしてそれがネオ・ジオンの民意が軍拡に繋がるのは当然でもあった。
「全く、軍拡が財政を更に圧迫することぐらいわからないのか」
「無理」
疲れた声で呟くハマーンに冷たい一言でたたっ斬るイリア。
これが増税や福祉、公共費が削減に繋がることを納得しての民意ならハマーンも文句は言ったりなんかしないのだが、そうではないのだからどうしろというのかと文句も言いたくなるのも仕方ない。
「とりあえず、テロの件がようやく収まり、動けるようになった。ここで軍事行動を起こすのも否はないが……」
「問題は根回しと派遣部隊」
「そうだな。私達が公に動くには連邦の承諾を得なくてはならない。それに何より問題なのは派遣部隊か」
ネオ・ジオンは公的には民間組織である。
そのため、部隊をサイド3から動かすのには連邦の承諾が必要だ。それ自体はニューオーダーが台頭してきているとはいえ、未だに影響力が強いのはエゥーゴやティターンズなのでそのあたりは問題がない。問題があればアレンに頼もう、などとサラッとシャアとシロッコに即死級のストレスを押し付けようと考えるハマーンだったりする。
そして問題の本命は派遣部隊である。
ご存知の通り、未だに連邦憎しの精神が根付いている。その状態で連邦と(正確にはティターンズやアナハイム)軍事行動を共にさせるというのは心配しない方が人として問題があるレベルだ。
「それにベテランの引退も痛いな」
一年戦争から既に14年の年月が過ぎている以上、当時の学徒兵ですらベテランの年齢になっていてルウム戦役からのベテランともなればかなりいい年齢になっていた。
そしてパイロットともなれば身体能力が直接命に関わるため、加齢によって落ちた能力で前線を張るのを嫌い、パイロットを引退して後方支援に回る者が多くなった。
それ自体はハマーンも、アンチ連邦が薄まるなら良しなどと考えていたのだが、後方支援というのは軍校勤務も含まれていたのを見落としたのが運の尽き、新米教育の際にアンチ連邦を刷り込まれるという取り返しのつかない失策をしてしまったのだ。
これにより現在のネオ・ジオンは元々アンチ連邦精神が根付いていたのに教育で更に磨きがかかったものとなってしまっているのだ。
ベテランなら任務だから、と自制に期待できるが新米にそれを求めるのは好みの女性を目で追うなというぐらい難しいのだ。ちなみにベテランは隣に彼女がいるぐらいの自制心である。
「とりあえず指揮は……イリア、やってみるか」
「断固拒否」
間髪入れずに返ってきた言葉にハマーンは苦笑いを浮かべる。
イリアの現在の立ち位置は微妙なものである。
軍功の殆どはハマーンと共に参加したティターンズとの戦いのみであり、基本はハマーンの補佐官として勤務している。
しかし、イリアは官僚ですらなく、ただの軍人で、しかも将官をザビ家が占領していたジオン時代とは違うこの時代に階級は中佐と低い。
簡単に言えばハマーンの腰巾着で国の中枢にいるのだ。
当然風当たりはかなり強いが本人は全く気にしていない。ちなみに昇進させないのは大佐以上になれば必要以上に軍の勤務に拘束時間が長くなるためである。