第三百五話
ネオ・ジオンの治安維持のための部隊派遣が連邦から許可が出た。
派遣部隊の総指揮官はフル・フロンタル、補佐にアンジェロ・ザウパー……ではなく、カリウス・オットーが務め、部隊指揮としてラカン・ダカラン、アンジェロ・ザウパー、ユーリ・ハスラー、オウギュスト・ギダンが、特殊部隊としてはダニー、デル、デューン、パイロットとしてはサトウなど、ネオ・ジオンのエンドラ級巡洋艦6隻、1隻に6機のMSが搭載されているので36機、1個中隊(ネオ・ジオンでは1個小隊が3機編成、12個小隊で1個中隊)が出動することとなった。
この陣容は武断派の強い意向が反映される形での構成となっているのは総指揮官がまだ実績が乏しいフル・フロンタルあることから察することができるだろう。それでも副官にアナベル・ガトーの懐刀であるカリウス・オットーを付け、指揮官とパイロットが混同した者達が多いため、戦闘時の艦隊指揮権を有するユーリ・ハスラーなどの文治派、多少強引な気質なところがあるが情勢を見極める能力がある武断派よりの中立派ラカン・ダカランなどを押し入れることができたのは会議の場で表情も変えず、ただただジッと見つめ続けて相手の心をへし折っていったイリアの成果と言える。
そして、この派遣部隊の活動拠点の1つとしてあげられているのは——ミソロギアの交易所であった。
もちろんハマーンやフル・フロンタルの独断ではなく、アレンには話を通してのことだ。
来るもの拒まず、去る者は追わず、害為すもの法を破るものは滅せよ、を標語としているミソロギアの交易所であるから問題ないが、さすがに巡洋艦クラスが6隻ともなるとさすがに事前に準備が必要となる。
ネオ・ジオンの影響力は非常に部分的で、拠点として利用できるような場所と言えば月とミソロギアや交易所ぐらいしかない。
他のサイドが6隻の巡洋艦を受け入れるのはさすがに一年戦争からそう経っておらず、民衆からの反対を受けて各政府から拒否されているのが現状である。
そして他で唯一利用できる月は利用するのにどれだけの対価が必要になるかと考えたら怖くて利用ができなかったとはハマーン談である。
もっとも本音は——
「どうせ軍費として消費するならアレンにも噛んでももらった方がいい」
交易所では税金ではないが、利用料が徴収されている。
その利用料は何処の税金よりも低いため交易所は繁栄させていた。つまり動く金額が大きれば利用料も大きくなり、そしてアレンが潤えば将来自分自身の生活も豊かになるというハマーンの狙いである。
「なんなら派遣部隊のやつらが問題を起こしてもいいのだが……」
既に問題を起こした場合、当事者は生死を問わず、しかも問答無用でネオ・ジオンの責任として賠償責任を負うものということが決まっている。
まさかネオ・ジオンの将兵も自分達の命が横領の種として利用されかけているなどと思いもしないだろう。
ちなみに一応ではあるが総指揮官であるフル・フロンタルにはこのことは伝えられていた。その時の顔色は幾分か青くなっていたらしい。
そして、当然ながらこの情報は不死鳥の会はもちろんのこと、交易所を利用している者達にも伝えられ、軍相手に商売ができるといつも以上に賑わうこととなり、その交易所に向かう船を襲う海賊もまた多くなった。
もっとも海賊が狙うのはその交易船が持つ物資だけではなく、ネオ・ジオンの派遣部隊を挑発し、戦うための行動である。
アースノイド至上主義にとってネオ・ジオンの軍隊を、スペースノイドを減らすことはエゥーゴやティターンズとの内ゲバ以上にやり遂げなければならないことなのだから当然といえば当然だ……もっとも親玉である連邦は自分達の権威と利益のためにサイドの再建というスペースノイドを増やす政策を実施しているあたりが皮肉であるが。