第三百七話
「フル・フロンタルはともかく、カリウス・オットーは久しぶりだな」
「ハッ、久しぶりであります!」(フロンタル大佐と面識があるのか?そんな話は聞いていないが……)
派遣部隊の一行を迎えたのはアレン本人とジャミトフ、カミーユ、そしてあまり表に出てこないフォウ、そしてアレン達を守るかのように8人のプルシリーズが外向き用の偽装用パイロットスーツを着用して傍に控えている。
「ラカン・ダカランも久しぶり……まぁ元々あまり親しくはなかったが元気そうで何よりだ」
「ハッ!アレン博士もご健勝なようで」
ラカン・ダカランは軍人
ある程度付き合いのある者にとって、アレンの言動はいつもどおりなのだが、そのいつもどおりの話し方は明らかに対等を越え、上からのものいいに聞こえる。
そしてこの場にいる他の将校……狂信者アンジェロ・ザウパーはその狂気を宿し、長いものには巻かれるが野心が強いオウギュスト・ギダンは噂に聞くハマーンの愛人、ネオ・ジオンの影の支配者、宙泳ぐ天災などと呼ばれるその存在が利用できるものなのかの見定めし(アレンには読まれてバレバレ)、ユーリ・ハスラーは裏事情はともかく、協力者なのは間違いないので謙る(へりくだる)必要は無いが無用な亀裂を生む可能性がある言動、そしてそれを許容している指揮官に眉を顰める。
「さて、再会早々だが君達に贈り物をしようと思う」
普通に聞けば善意、もしくは媚びへつらい、賄賂のようなものに思える言葉であるがアレンの日頃を知るカリウスやついこの間酷い目にあったフル・フロンタルとしては顔色を変えるのに十分なものだった。
「まずカリウス・オットーにはこれを」
そう言うやいなや、後ろにあったシャッターが開き始める。
「聞いた話では未だにザクIIN型を使っているとか?作った私としては長く使ってくれるのはありがたいことではあるが、同時に非常に嘆かわしくもある。そこで新たなるMSを用意した」
「これは……ザクIII?」
「そうだ。乗り換えるのに信頼できない機体では意味がない。故にザクIIIをチューンナップ施したザクIIN型の後継機、ザクIIIN型だ」
ザクIIIが開発されて随分と時を経たがその性能は現在の最新機に劣るものではない。むしろギラ・ドーガなどよりも優れている部分は多数ある。ならばなぜザクIIIではなく、ギラ・ドーガが量産されているかというと、簡単に言えば大半の軍人にはオーバースペックな上にコストパフォーマンスが著しく悪く、整備にも手間が掛かることがあげられる。
ネオ・ジオンはジオン公国の時代と比べて更に財政が厳しく……いや、一年戦争のせいでと言うべきか……とにかく妥協することとなったのだ。
ジオン公国は資源確保のためにオデッサ降下作戦を実施しただけのことはあり、サイド3の資源採掘は乏しい、それにジオン公国時代と違って宇宙海賊がニューオーダー結束前から障害になっていたというのも1つの要因であった。
「このザクIIIN型は整備性を高め、ギラ・ドーガとの互換性7割を実現に成功した。にも関わらずスペック的にはザクIIIよりも優れ、何より以前よりも内蔵メガ粒子砲やビームライフルが上昇し、有効射程が伸びている。更にインコムも搭載してオールレンジ攻撃も可能にした。何より追従性を向上させたのでザクIIN型よりも理想に近い動きを可能としていることだろう」
アレンが説明している途中でもネオ・ジオンの兵士達は興味深げに思い思い眺めている。
やはりネオ・ジオンではザク系のMSの人気は根強いものなのだ。