第三百八話
完全に興味はザクIIIN型に移ったのを見て取れたアレンは次のシャッターを開く。
「こちらは諸君らに提供する機体、ザクIII………………」
…………
………
……
…
皆、言葉の続きを待つが続きが出てくる気配がないのでざわざわし始める。
アレン的には適当にギラ・ドーガより強く、安く仕上げ、デザインを考えるのが面倒でザクIIIにした機体、というものである。
つまりこの沈黙は適当に仕上げたから名前を考えていなかったことから来たものである。
「……ザクIIIF型だ」
結局、場当たり的にジオン公国で1番量産されたMS、ザクIIF型に習って名付ける。
「「「おおーーー」」」
アレンのやっつけ仕事は思った以上にジオン将兵にウケたようだ。
(ジオン兵は本当にザクが好きだな)
ドムをモデルにしたドライセンやZガンダムをモデルとして開発されたバウ、ギャンの後継機であるR・ジャジャなど多く開発されてきたにも関わらず、その殆どが少数生産になっているのはコストパフォーマンスやスペック的な問題だけではなく、将兵のウケが悪いから、というものもあったりする。
古くても、スペックが悪くても、操作性が悪くても、それがいいというのは人間の性なのだろう。機能が全て、便利が全てではない。それは命を預けるもの(相棒)であってもだ。
(ハマーンやプルシリーズもその傾向があるから不思議ではないが)
ハマーンも今ではすっかりプルシリーズに乗っ取られてしまっている最初の愛機であるキュベレイと現在の愛機であるクィン・マンサには並々ならぬ思いがある。
それはプルシリーズもキュベレイに乗れることを誇りに思い、後継機にもキュベレイのデザインを採用することが決定しているあたり、その思いの強さがわかる。
「諸君もあまり長話は好きじゃないだろうからこれで話は終わりだ。後は自身の身体で感じるといい。機体を慣らすために宙域を確保しているのでそのあたりは後ろのジャミトフから聞くといい」
ジャミトフという名前が空気を凍らせ、怒気、怨嗟、殺意などありとあらゆる負の感情が渦巻いていく。その光景を感情を目で捉えることができるアレンは負の感情もここまで集まれば美しいものだな。などと言って眺め、カミーユはここでそれを言うのか……と呟き、フォウはさすがアレンね、と笑いを堪えるように身体を揺らし、当の本人は至って堂々としたものでどこ吹く風である。
さすが総帥を務めた翁は格が違うな、とジャミトフを改めて自分達とは違う階層の住人であることを実感するカミーユとフォウであった。
「後、フル・フロンタルとアンジェロ・ザウパーの機体の調整もするから後でデータを提出するように」
全く空気を読まずにアレンはそう言い……少し席を外すと言い残して席を立つ。
((この状態で放置?!))
さすがにホストの一味であるジャミトフに食って掛かる存在は——
「ティターンズの総帥がこんなところで落ちぶれ————」
いた。
ただし過去形である。
ジャミトフ達がまずいと思い……止める前に、ことは既に終わっていた。
暴言を吐いた兵士の手足に触手が絡まり、鳩尾にも8本の触手が叩き込まれ、ついでにとばかりに床に叩きつけて派手に放り投げた。
動いたのはもちろんプルシリーズである。
ジャミトフを馬鹿にしたことも苛ついたが、何より自分達の家を貶すような言動が許せなかったゆえの暴走である。
普通の家庭でも家をバカにされたなら面白くない。しかし、プルシリーズにとっては狭い狭い世界であり、それをバカにされて黙っていられるほどプルシリーズは大人(無関心)になれていない。
その所業にジオン将兵達が明確に殺気立ち始め——
「やめないか。先に暴言を吐いたのはこちらだ」
すかさずフル・フロンタルが割って入る。
このまま拗れていまえば間違いなくアレン(化物)が出てくることになる。そしてそうなると本格的に戦いになり……アレンと戦うことになる可能性が高い。
(アレン博士と戦うなんて御免こうむる。しかもこんな敵地のど真ん中でなど悪夢に他ならん)
「これより暴言を吐くものは懲罰対象だ」
自分としてもジャミトフに思うところがあるのだが、それを抑えてなんとか混乱を抑える。