第三百九話
「これなら……これなら地球のウジ虫共をひねりつぶせる!」
「うおぉ?!思ったとおりに動き過ぎて気持ち悪い!!」
「こんなMSを操縦したらギラ・ドーガなんて乗れんぞ?!」
パイロット達は血の気が多いゆえにジャミトフ達のこともあってしばらくはピリピリしていた。だがしかし、血の気が多いと同時に脳筋でもある。
簡単に言ってしまえば、目の前に自分の新しい相棒が鎮座しているのに、戦いにならない争いなどに割く時間が勿体無いととっとと和解の流れとなった…………プルシリーズは猫の不機嫌さを示す尻尾のように触手をビタンビタンと床を叩いていたが。
「アレン博士の鬼才っぷりは相変わらずのようだ」
カリウス・オットーは自身の新しい相棒、ザクIIIN型がザクIIN型と遜色ない操作性、しかし、明らかに何もかもが違うその動き。違うのに違和感がないことに違和感があるのに思う通りに動く。
操縦している本人すら意味不明で気味が悪いぐらいにいつもと同じで、いつもと同じではない動きなのだ。
「狙って当たる。当然といえば当然なのだが……新機体でこれはないな」
戦闘速度で機動し、ビームライフルで目標を狙い撃つと狙い違わずヒット。
これが今までの愛機なら複雑な機動を取るターゲットでも無い限りは当然の結果なのだが、今乗っているのはザクIIIN型だというのが問題である。
例え同じ機種であっても個体が違えば癖が異なり、カタログ上では同じ加速力、機動力となっていても若干の違いがあるもので、その程度なら腕でカバーできるがいきなり実戦は遠慮願いたいというのがパイロットの本音である。
そして今回は同じ製作者であり、後継機とも言える機体とはいえ全く違う機種である以上は慣れるのにベテランでも相応に時間がかかるものなのだ。
……そういう意味ではジオングという未完成品にも関わらず、ぶっつけ本番でアムロ・レイと互角に戦いを繰り広げたシャア・アズナブルもまた天才だろう。ニュータイプ能力はいまいちだが。
「しかし……今回のことでいらぬ欲を出さなければいいのだが……」
カリウス・オットーが懸念を抱いているのはアレンのこれからの動き……ではなく、ネオ・ジオンの一部の上層部であった。
ハマーン・カーンは、はにゃーん・かーんであるため原作ほどの求心力がない……まぁ原作でもグレミー・トトにクーデターを起こされているが……ので独断で行動することが割と多い。
一通り邪魔そうなネオ・ジオンの人間は暗さ……長い眠り(起きるとは言ってない)についているが今まで問題ない人物が欲に溺れることなどはよくある。人間の心など移ろいやすいものなのだ。
そして、ニューオーダーの台頭によりネオ・ジオンも緊張状態となっており、多くの力を求めても仕方ない情勢ではあるのだ。
「藪蛇などという可愛いものではないことを理解していてほしいものだ……ここはアレン博士の保有する戦力の一部を開示してもらうのも手か?」
護衛として動いていたプルシリーズの気配は、明らかに通常の兵士ではないということをカリウス・オットーに感じ取っていた。そもそもアレンが側に置いている存在が通常の人間であるとはかけらも思っていないし、その考えは正解である。
幸い、新しいMSに慣れるために模擬戦を申し込むというの不自然ではない。
「……一応申し込んでみるか……いや、海賊討伐前に士気を下げる可能性があるな。帰路に付く前あたりでいいか」