第三百十話
「相変わらずやるな!」
「腕が落ちたな!シャア!」
2人の声に呼応するようにMSが激しくぶつかり合う。
アムロは最近新しく開発されたサイコミュ……サイコフレームを搭載し、自分自身が設計に携わった専用機、νガンダム。
シャアは以前乗っていた百式を基にして再設計し、こちらも同じくサイコフレームを搭載した専用機デルタガンダム。(シャアはガンダムという名を嫌ってデルタと呼んでいる)
アムロの発言が戦況の優劣を表していて、シャアが防戦一方となっている。
それは仕方ないことでもある。アムロは未だに前線で活躍する兵士であるのに対して組織のトップであり、政治家だ。むしろ未だにパイロットとして活動しようとしていることの方が問題なのだ。
更に加えるとニュータイプ能力的に劣るシャアがブランクによる技量低下をしてしまえば——
「くっ、また負けたか」
「これで俺が負けたら立つ瀬がないさ」
こうなるのも必然である。
シミュレータから出てきて流れる汗を拭いながらアムロは苦笑いを浮かべる。
ちなみに勝敗は10戦中7勝2負、1引き分け(シャアに通信が入って無効試合)とアムロが圧勝している。
「そろそろ本題を話したらどうだ」
「ふふふ、やはりバレていたか」
こうやって模擬戦に誘ったのはシャアからで、これが口実でしかないことを長い付き合いであるアムロは察していた。
しかし、これだけ長い前振りにはちょっと辟易としていた。
「アムロ……宇宙に上がってくれないか」
「宇宙か……そんなに情勢が厳しいのか?」
宇宙ではティターンズやアナハイムと宇宙海賊が激闘を繰り広げているのは当然知っているアムロがそこを気にするのは当たり前だ。だが、シャアはそれを否定する。
「いや、ネオ・ジオンの参戦によって優勢になった……ハマーンとアレンには頭が上がらんよ」
「元々上がっていたか?」
「はっはっは」
否定する言葉がないシャアは笑って誤魔化す。
「ならなんで俺を宇宙に?」
アムロの問いに珍しくシャアは声にするのを躊躇した。
これはアムロとシャアの思いと傷であるから……。
「……そろそろララァと向き合ったらどうだ。アムロ」
「っ?!」
シャアはナタリー・ビアンキという伴侶にマーブルという愛娘もできたことでララァを過去の人……とまではいかないにしても喪失した思いはいくらか和らぎ、前へ……原作のように人に絶望せずに前へ歩んでいる。
しかし、アムロは未だにララァへの思い(妄念)に囚われている。
囚われているのは仕方ないとシャアは思っている。自身は庇われ、失ったが、アムロは自身の手で断ち切ってしまった。
奪われたという思いで他人に責任を押し付けることが容易なシャアに比べて、自身の手で殺めてしまったアムロでは心に負った傷(トラウマ)には大きく違いがあった。
「……それにお前になんのメリットがある」
「誤魔化すな。わかっているだろう?私が損得だけでこの話をしていると思っているのか」
アムロの言葉を逃げだと問答無用に切って捨てられ、決まりが悪そうにシャアから顔を背ける。わかっていながら濁そうとしていた……つまり図星を突かれたのだ。
「……わかっているさ。それでも——」
「怖い、か」
シャアも気持ちはわからなくはなかった。
地球に滞在するようになってから長くなったことで、宇宙に上がるのが少し怖くなったのだ。
宇宙に上がればまたララァと会える(会ってしまう)気がして。
「しかし、いつまでも怖がっていてはララァが気の毒だぞ」
「ああ……そうだ、な……だが……」
未だに歯切れが悪いアムロに更にシャアは言い募る……アムロの先程とは違った意味では言葉を迷わせていることに気づかず。
「まさかとは思うがアレンのことが怖くて宇宙に上がらないなんて……こと……は…………おい、アムロ、こっち向け」
「…………」