第三百十一話
全世界に激震が走った。
アムロ、宇宙に戻る。
その報は連邦、エゥーゴ、ティターンズ、ネオ・ジオン、ニューオーダー、軍関係者、政治関係者、民間問わずに衝撃を与えた。
アムロは一年戦争では連邦が、エゥーゴとティターンズの内戦決着後にはシャアによって英雄と祭り上げられていた。
本来ならエゥーゴ総帥であるシャアがそれに相応しいのだが、シャアは元ジオン軍のエースであるため喧伝してしまえば反発も強まることが予想されたのでアムロをスケープゴートとしたのだ。
それもあってアムロの知名度は首脳陣と戦力がほぼ壊滅状態だった原作のエゥーゴとは違い、完全な形ではなかったが余力を十分に残して勝利していたからこその変化である。
そして、この知らせにもっとも驚いたのは——
「全く、白い悪魔は大人しく魔界に封印されていればいいものを……」
(アレンに悪魔と言われたらどんな極悪人なのかと思ってしまうな)
「1人の人間が宇宙に上がってきただけでアレンがそれほど動揺するとは……英雄などと言われているがそれほどのものか?」
「ジャミトフは総帥であるし、指揮官でもあるし、軍人でもある……が、兵士ではなかったか」
ジャミトフから見えているものとアレンが見えているものの違いが大きいから出てくる言葉であった。
「カミーユはどう思う」
「アムロさんが来るとなると警戒は必要だな。海賊対策用の警戒網縮小、部隊の再編成が必要だと思う」
「よくわかっているな」
ジャミトフは優秀な総帥、指揮官、ついでに政治家でもあった。
しかし、アレンが言う通り、所詮は兵士では……現場の、前線で命を燃やし、敵と、己と、恐怖と、殺意と敵意と罪悪感と正義感とが入り交じる本物の戦いというものを体感していない。
「究極の個、などというものはしないが優秀な個は存在する」
「もちろん理解している。だからこそTRシリーズを——」
「クックックッ」
ジャミトフの答えを何処か小馬鹿にしているようにわざとらしい笑いが言葉を断ち切る。
「TRシリーズ、確かに最終形態の参考データを見た限りだと優れているものであることは認める……が勘違いをしては困る。アレは……というよりMSは優秀な駒であって優秀な個ではない」
「彼がそれほどの存在だったとはとても思えんが……」
「アムロさんと面識があるのか」
「ティターンズを結成する際に直接勧誘したことがある。素気なく断られたがね。当時の彼はただの少年にしか見えなかったものだが」
連邦の象徴とされるガンダム。
それを形としたのは紛れもなくアムロ・レイの存在であり、ティターンズに勧誘しない手はない。
ちなみにアムロが軟禁状態だったのはニュータイプという未知の存在であることもあったが、自分達が利用できず、敵勢力にプロパガンダとして利用されるのを防ぐために押し込めた張本人でもある。
そして、実は一年戦争でアムロ・レイを喧伝していた結果、ジオン残党に狙われ、万が一暗殺された場合の影響も考慮しての護りも兼ねていたのだが、これを知る者は本当に少数であったりする。
「アムロ・レイ、シャア・アズナブル……クワトロ?キャスバル?偽名が多すぎて他人に伝える時は面倒だな……とりあえず、あの2人が厄介なのはその実力だけではない」
アレンが今までに見せたことがないような渋い表情をしていることにジャミトフとカミーユは驚く。
今までアムロやシャアを警戒していたことをジャミトフ達は……特にカミーユは彼らの実力を身近に見ていたので理解していたつもりでいた。
しかし、どうやらカミーユ達が思っている以上の理由が存在しているようだ。
「……ニュータイプとはニュータイプに惹かれる。それはお互いが共鳴しあい、理解することで良くも悪くも惹かれる。それはカミーユとフォウやロザミアを見ればわかるだろう。そして、この3人には共通することが他にもある。それは——」
「元は敵同士だったことか」
「そのとおり。戦場でニュータイプが敵同士となった場合、日常生活よりも数万倍も相手を意識し、共鳴も深くなる……いや、そう錯覚してしまうと言った方が正確か、私ですら相手を完全に理解するなぞ不可能だからな」
((それはニュータイプ云々の話か?))
などと思ったが口にしないし、もちろんアレン自身にも自覚があるが問題とは思っていない。
「戦場という恐怖の中で理解し合うことは、吊り橋効果よりも厄介なことになりかねない。ちなみに自覚していないだろうが、カミーユとフォウはどっぷり浸かっている状態だが、それは些細なことか」
「ちょっと待て、どういうことだ!」
「カミーユが思春期であったことを差し引いてもこのようなことが起こることはかなりの確率であると予想される」
カミーユの問いかけを完全無視して話を続けるアレン。
「何より……残念ながら私やジャミトフでは不足しているであろう父性を感じ、惹かれる可能性があるのだ」
プルシリーズはやはり普通の人間に比べ促成栽培であるため歪であり、肉体に比べて精神は未熟であり、しかも道徳もアレンが作っているもので大体の常識からは逸脱し、それを経験してしまっている。
それはハマーンの護衛にとネオ・ジオンに派遣している個体である。
一般常識に触れたプルシリーズは今のところそれに疑問を持っているものはいない。
アレンは何をきっかけにそれが発芽するか危惧していたし、楽しみでもあった……が、それが万が一にも戦闘中であった場合は命に関わる。
しかも——
「ましてやカミーユ達のように恋愛感情に発展してしまえばお互い不幸しか待っていないだろう。……特にプルシリーズにとっては」
相手のことが理解できるニュータイプ、しかし全てをわかりあえるわけでもない。
ゆえに、未熟なプルシリーズは悪意によって利用されることもあるだろうとアレンは考えていた。
(アムロの方はともかく、あの無意識に人を利用し、他者の思いを軽視するシャアは特に注意が必要だ……だからといってアムロも問題がないわけではないが)
「そういえばアレンはプル達のそういう欲求はどうするつもりなんだ」
「色々考えてはいる。クローンの男性個体を用意する、何処からか攫ってくる、いっそプルシリーズ同士の遺伝子で子を成すなど色々考えて入る」
((サラッと外道なことが山のように出てくるあたりさすがアレンだ))