第三百十二話
「宇宙の秩序を乱す新たなる咎人を粛清したことをここで申し上げる」
これはネオ・ジオンの海賊討伐に派遣され、見事に討ち果たした(滅ぼしてはいない)フル・フロンタルへのインタビューの時のものである。
「こうして我々ネオ・ジオンも宇宙の秩序を正すことに微力ながらお役に立てたことを誇りに思う。人の富を暴力で奪おうなどという痴れ者が多く、未だにコロニーを植民地、スペースノイドを奴隷か何かと勘違いしている時代錯誤しているような言動はまことに残念だ」
とどこも残念そうに見えない様子で語った。
そして——
「ネオ・ジオンはスペースノイドの味方でありたいと思っている。ジオン公国の時代の所業を忘れたわけではない。だが、ここであえて言わせてもらおう。ジーク・ジオン、と。新しいジオン、ネオ・ジオンとスペースノイドと共に明るい未来を勝ち取ることを祈って、ジーク・ジオン」
そう締めくくると後ろにいた兵士達が続くように——
「ジーク・ジオン!」
「ジーク・ジオン!」
「ジーク・ジオン!」
このインタビューの内容は連邦とエゥーゴに対して皮肉が混ぜられている。
スペースノイドを奴隷が如く扱っているのは地球連邦であるし、圧倒的権力と戦力をもって富を収奪しているのも地球連邦であるが、それを海賊と同程度だと遠回しに言っているのだ。
エゥーゴは失策続きでスペースノイドからの支持を失いかけており、これを機に自分達の支持基盤へと塗り替えてしまおうと画策してのことだ。
実際誇張でもなく、ネオ・ジオンは目覚ましい活躍をしている。
海賊の名を掲げているが中身はニューオーダー、しかもガチガチのアースノイド至上主義が……ジオンへの恨み骨髄のニューオーダーが標的にするのは猫が猫じゃらしを、犬が投げられたボールを追いかけるぐらいに自然なことだ。
自然とネオ・ジオン派遣部隊に海賊が集中的に襲い始めた。
しかし、宇宙で生まれ宇宙で育ち宇宙で戦うネオ・ジオン兵士、その中でも精鋭とも言える派遣部隊が地球育ちの促成栽培の付け焼き刃である宇宙海賊に宇宙戦において遅れを取るわけもなく、ほぼ圧倒し続けた。その華々しい戦果もあってのインタビューでもあった。
それならばと戦術としては王道の補給を襲い、断ち切ることを考えたのだが肝心の補給場所は海賊達が根城としているミソロギアの交易所であることが判明して海賊達は呆れを通り越し笑ったそうだ。
同じ場所を根城にし、同じ場所から戦場へ赴き、同じ場所へ帰っていたのだから笑い話にしかならない。もちろん共通点を見つけて何かが芽生えるなどということはない。
それを知った段階で兵站を断つというのは諦めることとなった。
ミソロギアに喧嘩を売ったことも1度や2度ではないのだが、全てが満足な戦果を上げることもできずに返り討ちになってしまっている上に、最近ニューオーダーを取りまとめ始めたジーン・コリニーにミソロギアへの干渉(特に武力によるもの)が禁止されたことにより迂闊に手を出すことができなくなったことが主な原因である。
そもそもニューオーダー(正確にはジーン・コリニー)とアレンの間には非干渉の密約が結ばれている。 しかし密約である以上、知る者は限ら、何よりジーン・コリニーは上層部に属するが結成当時からのメンバーというわけでもなく、まとめ上げるのに苦慮していた。
そのため海賊達に伝わるまでにかなりの時間を要した結果、ミソロギアが所属する輸送船団を襲うという事態が発生したのだ。
もっともアレンはジーン・コリニーの評価を落としただけで特に何も対応することはなく、むしろ懐に誘い込むことにした……一々アレン自身が監視するのも面倒であることと、いつでも始末できるように、と。
「見事で感動的な演説でした」
「これも指揮官としての勤めの一部さ。それよりアンジェロ中尉、反応はどうだ」
「はい、最初こそやはりジオンという名に抵抗があったようですが、我々の活躍と共に上昇していた物価が下降していることで評価に変化が起こっています。」
「そうか……」
ジオン公国時代の負債は大きい。
未だに根強く支持を受けているのはサイド3ぐらいで他のサイドはほぼ壊滅的と言っていい状態である。
世論というのは諸刃の剣であり、うまく使うことができれば強力な武器となる。
現在は刃で自身傷つけ続けている状態なのだが、それでも宇宙という距離のある空間のおかげで実感しづらい環境となっていた。このままでは無駄に傷つけ、傷つけられ続けることになる。
それらを改善すべくフル・フロンタル達は動いているのだ。