第三百十四話
「私の作品達を眺めている場合ではないだろう。君達はこちらだ」
目的の部屋は奥なのでジュドー達に進むように促すと全員が息を飲み、緊張していることを伝えてくるが人の私室で失礼な奴らだ。
そもそも人間の命が生物の範疇から外れて重いなどと思っているなど愚かしい。家畜や植物を都合で人間が数を増やし改良するように人間が人間を数を増やし改良することにどの程度の差があるというのか。
もちろん口にはしないがな。これはあくまで私の考えであり、他人に押し付けるつもりはない。ただし、他人の考えを私に押し付けようとするならその時はそれ相応の覚悟をすることだ。
世の中、自分が正しいと思う愚者が多く、それを恥も知らずに声とする者が多い。別に思っているだけならいいのだ。思っているだけでも察してしまう私の溢れ出る才能が悪いのだから。
しかし、それを声に出してしまえば責任が生じる。そこを理解できない輩は本当にタチが悪いのだ。
話が脱線したな。
二の足を踏んだジュドー達はたっぷり時間を掛けつつも足を進め始める。
うむ、それでこそ今まで訓練を施してきたかいがあったというものだ。
「さて、ここが目的の部屋だ。良かったな。この部屋に入った者は本当に限られた者達だけだぞ」
(((すごい(すごく)(めっちゃ)嫌な予感がする?!)))
具体的にはプルシリーズ上位ナンバーのみである。
同志と言って過言ではないスミレや派遣部隊の隊長を勤めているカミーユ、政治や外交を任せているジャミトフすらもこの部屋には来たことがない。つまり元々部外者だった奴らは誰も入ったことがないのだ。
ちなみにだがお前達のその予感はお前達主観にした場合、当たっていると思うぞ。私にとっては日常だが。
「うっ」
「こ、これは——」
「うおぇ」
「え、ちょっと、これって——」
そしてお前達は間違いなくリィナ・アーシタを連れて来なくて正解だったと私が保証しよう。
「な、なんで、なんでこの人達は……手足がないのよ?!」
この部屋にはマネキンのように立てかけられた人間が並んでいる。
「こいつらはあのエセ海賊ではなく、本物の海賊だった者(実験台)達だ」
「理由になってないわ!アレンなら人間の手足なんて朝飯どころか寝起きの寝ぼけ眼でも治せるでしょ?!」
「なぜ治さなければならない?」
もちろん治すことなんてこの場にある全てのマネキンもどきを人間に戻すことなど他愛もない。
しかし、残念ながら私にはそんな意思は欠片もない……というよりそもそもこれを行ったのは私自身なのだから当然だろう。
それに——
「これを治すというのは私になんのメリットがある?」
「メリットって……」
やはりアンダーグラウンドで生きてきた『つもり』なのだ。この青年達は。
もちろん道徳的には間違いではない。それは私も同意する。
だが、それは殺し合う兵士達には当てはまらない。
条約だ、人道的見地だ、と殺し合いなどせずに後ろから指図する者達が決めたそれは守られるのは余裕がある時に限られる。
それに殺戮が仕事である兵士であるとはいえ、大体の人間は好き好んで人を殺したいというわけではないので精神的疲労が少なくなるというメリットがあり、何より『いつか自分も捕虜になるかもしれない』から捕虜交換で助かるかもしれないからという打算が多分にあるからだ。
「そもそも医者すらも対価を受け取って治療を施すのになぜ私がボランティアなどという自己満足をこんな奴らに施さなければならない……ああ、そうか、こいつらの所業を知らなければそう思うのも無理はないか」
こいつらは殺人は当然として拷問という言葉で片付けていいのか私でも困るような行為や強姦、中にはなかなかに悪食な者までいることを説明した。
「そ、う」
エル・ビアンノの先程までの勢いは何処へやら、声に力がなくなっていた。
……まぁ別にこれが理由でこんなことしているわけではないがな。実際この中には海賊に成り立てでほぼ一般人と言ってもいいような奴もいるが、等しくだるま状態だからな。
「納得したようなので改めて試験を言い渡すとしよう」
触手を操り、未だに顔色が悪く、目が虚ろなジュドー達の前に用意していた物を差し出す。
「じゅ、銃……おい、まさか」
ジュドーやビーチャは触手が差し出した銃を見て察したようだな。
……それとモンド・アガケ、私の作品の1つが改造して皮膚が透明になっている程度で吐きそうにならないでもらいたいんだが……絶対吐くなよ?吐いたら撃つぞ?肺に穴を開けた状態で掃除をさせるぞ?
「試験としては定番だが、ここはあえて様式美と言い表すか。察しの通り、これからそれで奴らを殺してもらう」
ドラマや映画でよくある展開だ。日頃は新しいものを追い求める私ではあるが、こういうお約束的なものも嫌いではない。(どう考えても悪役)
「何はともあれとりあえず銃を受け取るがいい。敵を殺す、人を殺す覚悟ができているんだろう?ならその覚悟を示せ」
銃を更にジュドー達を寄せて受け取るように促す。