第三百十五話
「お前達は訓練で慣れてしまい忘れてしまっているようだが、敵はMSという兵器ではなく、それを操縦する人間が敵だ。それを殺すことに躊躇するならば戦場に立つ資格はない」
真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方であるとはよく言ったものだ。かの皇帝は間違いなく天才の部類だ。私ほどではないがな。
「……」
言葉を発する方法を忘れたかのように沈黙しているが、ジュドーは銃を掴もうとカタカタ震える手を伸ばし始めた。
「ああ、狙うのは頭ではなく心臓……この位置を狙ってくれ。掃除が面倒だからな」
心臓からの出血なら穴が空く程度で済むが、頭だと弾けてしまうために派手に飛び散ってしまう。
……そうだ、血圧を下げておくか。そうすれば何処であろうと多少は出血も少なくて済むな。
「うおおおおお!!!」
自分自身を奮い立たせるように叫びと同時に動いたのはビーチャ・オーレグだ。
彼らの中で1番勇気を持つ者はジュドー・アーシタだが、仲間思いでありながら負けず嫌いなビーチャ・オーレグだろう。
そして——
——パンッ——
火花と血の花が舞う。
「おめでとう。無事成人の儀を達成したな。ビーチャ・オーレグ。さて、このゴミは片付けて代えを用意するが……次は誰だ」
結局全員成人の儀を達成することができた。
モンド・アガケは随分と時間がかかったが、臆病な性格を考慮するならよく達成できたものだ。
まぁあれだけ真剣に向き合っていたが実は射殺したモノは全員生きている。
わざわざ資源をみすみす殺すわけないだろう?脳を破壊されるとさすがに無理だが、心臓が壊された程度で死ねるほど私は甘くない。
殺してくれと懇願する検体も存在するがそんな自由があると思っているのか。
「聞いてますかアレンさん!!」
で、今は目の前にいるスミレに説教されている。
どうやら憔悴しているジュドー達を見て原因が私だと思ったらしい。まぁ概ね間違いではないが言い出したのも試験をクリアしたのも彼ら自身なのだがな。
「ジュドー達が多少憔悴していたからと気にしすぎだ。ここではあの程度のことは当たり前のことだろう」
「もう少しじっくり訓練してからでも良かったでしょう!」
「訓練なんぞ100回繰り返そうと1度の実戦が勝る……それぐらいわかっているはずだが?」
「しかしですね……」
「プルシリーズは良くてジュドー達には悪い、道理が通っていないことは自覚しているな?」
「それは……」
まぁわからなくもないがな。
ジュドー達があまりに『普通』に過ぎる。
その『普通』がこのミソロギアでは尊く感じ、壊してしまうのが惜しく感じてしまっているのだ。
プルシリーズは純粋であるが普通ではないため、子供らしい残酷さが強く出ている。そのために私の教育などなくても普通の範疇に収まるとは思えなかったのだが。
「おかげでニュータイプ能力も随分成長したようだし一石二鳥だ」
「確かにニュータイプ能力は上がりましたがトラウマになっちゃいますよ!」