第三百十八話
模擬戦を下位ナンバーの訓練に使ったらフル・フロンタルとカリウス・オットーから苦情が来た。
自分達が勝ってなんで苦情を入れてくるのか……まぁ海賊狩りで増長しているネオ・ジオン兵が更に増長しているから当然といえば当然か。
正直、下位ナンバーがここまで弱く、ネオ・ジオン兵がここまで強いとは思わなかったんだがな。
やはりデータだけだとわからない部分があるな。いくらデータを解析したところで戦士の直感という人間の頭脳が生み出すひらめきを上回るのは難しいことが立証できたわけだ。
ただしもう1度言うが、ここまで惨敗するとは思ってなかったがな。
仕方ないのでご要望に応えることにした。
とりあえず適当にシミュレータで遊んでもらっている間に急いで準備を始める。
シミュレータで敗北した以上、この後中位ナンバー以上を出して蹂躙したところで不正行為が行われていると思われるだけで意味がないどころか逆効果となるだろう。
なので、実機で証明するしかない。
だが外部への情報漏れを考えると迂闊なことはできない。
「そこで、急遽模擬戦フィールドの建築を決定した!!」
「どんどん」
「パフパフ」
……お前達、一体そんな旧世紀の小ネタを何処から仕入れた。
それはともかく、プルシリーズは……揃っているな。
運営に支障を来さない1300人のプルシリーズを招集したがよく急な呼び出しでも揃ったものだ。
「というわけでお前達にはこれを作ってもらう」
どうせ作るなら色々と一々ミノフスキー粒子を戦闘濃度にしなくても訓練を行える模擬戦場を作ろうと思い至った。
もうこの地球圏にいる時間は少ないとはいえ、まだまだ余談を許さない。実際、交易所でニューオーダーによる自爆テロ未遂は10件発生している。
全く、面倒だからと大目に見てやっているというのに……これだから無能は嫌いだ。
ともかく、自爆テロを起こそうとする者が直接的に武力行使に出ないとも限らない……というか水面下で性懲りもなく準備しているようだが、さすがに惨敗している宇宙に出てくることはないはず。おそらく今度は地球が舞台となると予想しているが念には念を入れて置くに越したことはない。
「ちなみに4時間後には完成予定」
「「え?!」」
私の宣言終了と共に上位ナンバーが立ち上がり、部屋を出ていく。
さすが上位ナンバー、私の意図を汲み取るのが早い。
そして次にその様子から察した古参中位ナンバーが続く。
「残り時間3時間58分」
残ったプルシリーズは揃ってビクンッと跳ね、アワアワしながら部屋を出て行き、そして私1人になった。
「さて、間に合うかな?」
体積はコロニーと変わらない球体状の模擬戦場、外殻はあらゆる観測を遮断し、外部からはニュータイプ能力以外ではまず情報を得られないようになっている。
もっとも外殻と言うより膜に近い素材であるため、簡単なビームコーティングと模擬弾や小さいデブリの衝突を耐える最低限の強度しかないものだ。
「まぁ地球圏を離れる際には捨てていくことも考慮すればこの程度が上限だろう」
無駄に資源を消費するのは私の本懐ではない。
「……後3時間40分か……」
結果から言うと間に合った。
ただし完成したとは言えない。
私の予想では完璧に仕上がっていたはずだが、どうやら下位ナンバーが慌てすぎて失敗が何度かあって遅れが出てしまった。
しかし、プルシリーズの機転により最低限の情報遮断と耐久は保つことができた。
プルシリーズの成長にばらつきがあることに不満があるが、自分達でできる限り対応したという確かな成長に感慨深いものがある。
これは特別ボーナスを出すしかないな。もちろん下位ナンバーにも『特別』ボーナスを出す予定だ。
「……アレン博士、確かに頼みはしたが……」
フル・フロンタルは巨大な建造物がたかが4時間程度で現れたことに冷や汗を流しているようだ。
ふ、この程度私とプルシリーズがその気になれば造作もないことだ。(前文と言っていることに矛盾が……)
ふむ、MDは戦力としてもいいが作業用としてもっと製造していてもいいか?
「さて、諸君——」
私はネオ・ジオン兵と周りにいるプルシリーズに向けて声を掛ける。
「覚悟は良いか」