第三百二十話
単純に考えて90基のファンネルのビームとその主であるキュベレイ・ストラティオティス、しかもプル、プルツー、プル3のミソロギアが誇る精鋭を前に、同数の、しかもエースにも満たない存在が相手になるのか。
答えは否である。
「ッ——!!ッア」
「グ?!チッ」
「——————」
3Dは声を発する余裕すらないのが現状だ。
少しの気の緩めは即撃墜に繋がる。
連携?反撃?そんな余裕は欠片もない。それが当事者だけでなく、観戦していた者達にも伝わるほどの弾幕。
「我々の武威を知らしめるため、遊びはなしだ!」
「プ〜ルプルプルプル〜!」
「見せ場が減るけど……致し方なし」
元々この3人ですら30基のファンネルを戦闘レベルで操るのはそれほど長い時間は行えない。無理をしてそれを超えれば精神的疲労で戦闘能力が著しく落ちる。
つまり、それだけ最初から本気なのだ。
「来、来るな!」
「これ以上は——」
「……………」
今までがファンネルのみ。
そして3Dの願いは虚しく叶わず、とうとうプル達が距離を詰めて本格参戦を始める。
キュベレイ・ストラティオティスの原型となったクィン・マンサに匹敵するその火力が加わると3Dの処理能力を超え、プル達の攻撃はなんとか躱すことに成功したが隙が生まれ、ファンネルのビームを被弾してしまう。すると機動に支障を来たし、バランスを崩してパイロットの意思とは関係なく機体が流される。
そしてその動きはファンネルのビームという濁流に飲まれ、手、足、肩、胴など次々と命中し——
「またのご来店、お待ちしておりま〜す」
たまにファの経営?する食堂でなぜか使われているファミレスのマニュアルの挨拶を送る。
「本当の敵として遭わないことを願うがいい」
ただ、この程度の敵なら私だけでもどうとでもなるな。プルツーは思いながら。
「介錯……する」
ああ、早くも出番が……とプル3は寂しさを抱きながら。
それぞれがそれぞれの得物で3Dが操るザクIIIF型をビームで貫き、模擬戦は終了した。
「そんな馬鹿な」
「3Dが瞬殺……」
ネオ・ジオンの将校達はカリウス・オットーを除いて、目の前の結果が信じられない、受け入れられないと言った表情をしている。
例外でアレンの強化を受けたことがあるカリウス・オットーは、更にやばくなったなと語彙力が死滅したような感想を漏らす。
それとは対象的にアレン達は当然の結果という空気で、それが更にネオ・ジオン将校達の動揺を誘う。
そして1番動揺しているのは何を隠そう、フル・フロンタルとアンジェロ・ザウパーの2人だ。
「これ、ほどとは……」
自分で依頼しておいて、自分の予想を上回る存在が現れたことで動揺しているのだ。
大体のところ、シミュレータの時から勘違いしている。
確かに前評判ほどの強さを見せなかったことでミソロギアを舐めていたが、それは錯覚なのだ。
そもそも3対6の戦いで少数が負けるのは当然であり、それでも普通の戦いになっていたことの方が問題なのだ。
そのことにやっと気づいたフル・フロンタルは嫌な汗が止まらない。
「あの3機のパイロットは間違いなくあの宰相閣下と並ぶ実力者……一体どうなっているのだ」
アンジェロ・ザウパーは、以前までハマーンは自身の権勢が整ったため連邦との戦いを避けて権力保持のためにハト派に鞍替えしたと思っていたが、前回の模擬戦において圧倒的な力を魅せつけられたことで多少は敬うことにして、影ではハマーンと呼び捨てであったが現在では宰相閣下と呼ぶようになった。
「あの3機だけで私達は相打ち……下手をするとあちらは無傷という可能性もあるか」
もし自分達が戦うことになった場合、おそらく相手は眼の前の機体ではなく、新たな機体が相手なのではないかとフル・フロンタルは予想した。
今までほとんど手に入らなかったミソロギアの情報がここに来て一気に放出された。それは現在の情報を知られても痛くないことを意味するのではと読んだのだ。
そしてその考えは正しい。
「ま、まだ1度負けた程度だ!次だ!次!」
その声は誰が言い、誰に言ったのか。
動揺する他人か、恐れを払うために自身に言ったものなのか。