第二百三十三話
模擬戦であるためキュベレイ・ストラティオティスが触手を使うことはなかった。つまるところ全力ではなかった。
しかし、フル・フロンタルに破れた。
同数ではないにしても、上位ナンバーが破れた。
戦場なら負けることはない……と言い訳するのは簡単だが、上位ナンバー3人が破れた事実は変わりない。
「フル・フロンタルか……」
正直、フル・フロンタルとカリウス・オットーの能力は私の分析ではさほど無い。
両者の違いは率いるエースか、支えるエースというところがある。だが、そのような些細な違いで負けるほど上位ナンバーは甘くない。
プル、プルツー、プル3が飛び抜けているのは事実だが、上位ナンバーとの差は上位ナンバーが負けるほどの差ではないのだ。
しかし、負けた。
「やはり、『なにか』があるのか」
以前にも感じた、実力以外の『なにか』の片鱗を今回のことで見えた気がする。
しかし、見えたからと言ってどうにかできるものかと問われれば、難しい。
「私ならなんとかできるかもしれない」
『なにか』を正しく捕捉できたわけではないが、私の発明とニュータイプ能力で圧倒することで『なにか』を潰すことができるだろうと感じている……正直研究者が根拠なき直感だけで判断するのはどうかと思うがな。
「しかし、負けたとはいえ、これでフル・フロンタル達からの依頼は達成できたようだな」
他にも5戦ほど模擬戦を行ったのだが、全て私達の勝利圧勝。それはもう見事に天狗の鼻を折れたことだろう。
これでここにいる者達はハマーンの発言は無視できないものとなり、私達の優遇政策も抵抗は減るはずだ。
正規軍よりも強い私兵を抱える宰相……普通に考えれば厄介事の種でしかないが、それも期間限定のものとわかれば人間は許容できるもののはずだ。
ここにいるのはほとんどがネオ・ジオンの主流である武断派だ。それを黙らせることができるなら安いものだ。
だが、万が一のクーデターに備えて上位ナンバーを15人ほど詰めておく必要があるか。今回の模擬戦でネオ・ジオンの強さが明確になったことで上位ナンバー数人いたところで苦戦は必至だということが判明した。もちろん中位ナンバーもいるのだから全滅はないとは思うが、それ相応の被害が出ることが予想ができる。
こちらが万全な状態で迎え撃てれるわけではないのがな。中位ナンバーは一人前の証としているがそれはあくまでパイロットとしての技量、外へ出して機密保持ができる程度の教育を施した者がほとんどだ。
上位ナンバーなら高い確率で奇襲、強襲を事前に察知することができる……いっそのこと居住艦に未来予測システムを配置するか?しかし現状、未来予測システムのレーンは次世代の量産型MS用を製造していて余裕がない。
未来予測システムとサイコミュはその性質上他の部品と互換が少なく、製造するのに手間がかかる。
私自身が手がけてもいいが——
「それに私も思いついたものがあるしな」
あるアニメを見て新しい兵器の構想を得た。
扱いが難しい兵器になりそう……というよりもおそらく私以外に扱うことはできない兵器で、急ぐ必要などないのだが、思いついたら作りたくなるのが研究者、開発者としての性というものだ。
まだ次世代量産型も完成してないのだがな……一通り完成はしているのだが、イマイチ面白くない。
クィン・マンサII同様、スペック向上は当然のことだが面白みに欠ける。なんというか……そうか……切り札的なものがないからか。
プルシリーズが一般兵に負けることなど油断がなければない。なら負けるとすれば相手も相応の人物とMSであることが考えられる。
そもそも量産型MSはクィン・マンサIIの量産型となる。本来なら全てが切り札的存在なのだが、それが私達では普通だ。
ならば、普通ではない、私達なりの切り札が必要なのだ……パッと思いついたのがGP02の核弾頭による自爆というのは自分でもどうかと思う。