第三百二十四話
「そ、創造主様!スミレ博士!こ、これからよ、よろしくお願いいたします!」
明らかに緊張しているプルシリーズ5人が並ぶ。
彼女達は初めての試み、戦闘用ではなく、研究開発を専門に教育したプルシリーズだ。
今までプルシリーズが研究や開発の手伝いをすることはあった。
しかし、今回は培養器の中にいる頃から教育を施した検体である。
正直、プルシリーズは遺伝子的才能面では研究開発に向いているとは言いづらいが、新シリーズを用意するより生産的にもミソロギアの社会的にもプルシリーズの方が安定する。
やはり組織運営というのは研究者とは新しいものを追い求めていきたいところだが、経営者、統治者の思考では安定を優先してしまう。
そのためか知らないが私の思考が硬直している気がする。(あくまで自己診断)
それはともかくとして彼女達に声を掛けるとしよう。
「これから新たな道を切り開くことになる。困難であるだろうが励むが良い。お前達の姉妹に新たな道があることを示せ。そして私達の助けとなることを期待する。これを受け取れ」
「これは?」
渡したのは私が開発したメガネだ。
プルシリーズが視力矯正なんて必要があるはずがない。そもそももし視力に問題があるなら私直々に修復している。
なら、なぜメガネか?
これには超小型サイコミュが搭載されている。これによって思いついたことを記録したり、知りたいことをデータベースから検索したりなど所謂携帯端末の一種として利用することができるのだ。
メモやコンピュータに書き記したり入力したりするのもいいが、通常の人間が経験することをプルシリーズ大部分省略している。こういう習慣的なものを身につけるには長い時が掛かる。
実際プルシリーズに説明しているのだが、反応はイマイチだというのが答えだ。
そこで私は習慣付けるのではなく、勝手に習慣になるようにした。
サイコミュによる通信はプルツー専用機に搭載されているPLSの応用で簡単に作ることが可能だった。 正直、サイコミュによる通信は今までは思考による通信は誤送信の可能性、情報の長文化、そして何より情報量の過多によりミソロギア自体の情報処理能力の低下と長距離通信を行うとなると大型化する必要があるなどの理由で実用の意味がなかった。
しかし、これを軍事運用から離せば問題ないのではないかと思い至り、開発したものだ。
1番問題であった情報処理能力の低下は研究開発に携わるプルシリーズに限定すれば許容範囲内で収めることができる。
「では、活躍を期待する」
「「はいっ!」」
ちなみにこの研究開発専門のプルシリーズは兵器開発のみを行うものではない。
ミソロギア内の文化を育てることを視野に入れ、料理や音楽、ファッションなど広く手がけることとなる。
今はまだ地球圏内にいることで外の文化を取り入れるだけで問題ないが、地球圏外に出るとなるとそれも途絶える。
文化がない人類がどのような心理的影響を与えるのかは未知数。実験としては面白いかもしれないがさすがに全ての命を賭けての博打は分が悪過ぎる。
博打とは一か八か、命が助かるか助からないか、もしくは取り返しが付く程度で行うものだ。組織でいうと一部を賭けるならまだしも全てを賭けるなんてありえない。
「さて、私は研究に戻るか」
思いつきで開発し始めたが、やはり難しい。
形にすることも機能もできているが、これを使うとなると私以外では難しいだろう。
私が開発を始めたのは、メガ粒子を外部でIフィールドで留め、高速で放出させる技術だ。
これだけ言ってもピンと来ないだろう。
メガ粒子を高速(亜光速)で放出するというのは簡単に言うとビームのことで、Iフィールドで留めるのもエネルギーCAP技術の1つだ。
つまり、実質私が行っているのは外部で留めるという部分なわけだ。
「かめはめ波や気功弾のように使えたら格好いいだろうが……実際は手のひらにメガ粒子を留めてサイコミュでミノフスキー粒子を操作し、方向を定めるだけで腕を動かす必要がないのがな」
ああいう技というのは動作があってこそ格好がいい……まぁ両手からビームを乱射する姿も映えるかもしれんが。
ただ、これにはメリットがあり、メガ粒子の出力はパイロットが操作することができる上に、留めているメガ粒子は全方位に向かって予備動作無しで放つことができるため、砲身で気づかれることもないというメリットだ。
ちなみに接近戦で留めているメガ粒子を叩きつければ螺旋丸のような効果を発揮することができるだろう。もっとも私は接近戦は苦手なのでそんなことにはならんだろうがな。