第三百二十六話
突然だがミソロギア内でテロが発生した。
爆弾テロだ。
しかも外部との接触が多い交易所ではなく、完全に出入りが規制されているミソロギア内でのテロということもあってプルシリーズは大混乱。
私も敵意が察知できずに驚いたもの。
幸いにして人も物も大きな被害もなく、実行犯もすぐに捕らえられた。
実行犯に尋問を行ったところ次のように自供した。
『卵を茹でようと思ったんだけど面倒だったからレンジに入れたの。まさか爆発するなんて思わなかったの』
簡単に言えば実行犯……プルシリーズが卵をそのままレンジでチンして爆発させただけなのだ。
最初はなんの冗談だと思ったが事実だった。
まさかそんな基本的なことを知らないとは思いもしなかった……促成栽培のプルシリーズであるから仕方ないことなのかもしれないが、こういうことが起きないように改めて知識を与えないといけないだろう。
他にも加熱した油に水を入れる。密閉容器に高温の液体を入れて蓋をする。炭酸飲料を冷凍庫で冷やす。塩素系漂白剤と酸性タイプの洗剤を混ぜるなどと言った愚行を行わないとは言えない……まぁ塩素ガスが引き起こす程度の皮膚炎や内臓に障害などプルシリーズやジャミトフにはなんら被害がないし、私は事前に察知して回避もできる。
しかし、一般人枠のスミレやファは当然として、ニュータイプでも回避ができるか怪しいカミーユやフォウなどが犠牲になりかねない。
「教育を軍事に偏らせた弊害だな。日常的な注意点も今度から教育マニュアルに加えておくか」
今まではニュータイプと兵士としてのみ育て、役割を担ってきた。
今回の爆発テロは先日開発研究を専任することとなったプルシリーズが引き起こした。
ただ、教育の偏りだけを要因とするのも間違いだろう。
なぜなら今まで軍教育に偏らせていたとはいえ、料理を全くしないわけではなく、そういった事件事故はなかった。
つまり、教育ではなく、生まれてから経験で得た知識が事件事故を防止していたのだろう。
これは人生以上の教育はない、ということかもしれない。
とはいえ、時間は何よりも貴重な資源だ。それを少しでも節約するための教育であると思っている。
「しかし、今後こういうことがないとも限らない」
やはりカミーユ達の強化(物理)も視野に入れないといけないか?ただ、本人達が嫌がるのがなんとも……せっかく無酸素でも1時間活動できるようにしたり、ダイヤモンドを握りつぶせるぐらいの握力にしてやろうというのに……何が不満なのやら。
「自分の体を好き勝手イジられて嬉しい人間がいると思うか?」
「プル達は喜んでイジられているじゃないか」
「いや、そこであいつらを持ち出すのは卑怯だろ」
カミーユ達にとってプル達の話は複雑なものであるのは現在も変わらない。
クローン、しかも大量生産、洗脳教育、生また時から兵士、常軌を逸した人体実験、虐待のような訓練、どれか1つでも一般常識では受け入れられない、批判して当然の内容ばかりで、その上全てが行われているというのだから話題にしづらいというのも仕方ないことだろう。
どれを言い訳に使ってもプルシリーズの存在意義(プライド)に関わるのだから卑怯という言葉は甘んじて受け入れよう。
もっとも改めるつもりはないが。
「ちなみに今ならアンチエイジングどころかリアル若返りもおつけします!」
知っているぞ。そろそろ自分達の輝きが曇ってきているのではないかと心配していることを!
「でもお高いんでしょ?」
私のフリにフォウが興味がない……ような声色にしながらも興味津々と乗っかる。
「それがなんと私による私のための魔改造もおつけして特別価格!198イクスペリメントになります!」
「まぁお安……くないわね。198回も実験に付き合わせる気?」
「冗談はさておき、とりあえず内臓系だけでも強化しておくべきだと思う」(便秘に悩まされることはなくなるぞ)
後半は彼女達にのみ聞こえるように伝えた。
ちなみにプルシリーズの排泄回数は大小両方共に2日に1度くらい、しかもごく少量しか行わない。
その理由は上位ナンバーあたりぐらいまでは普通の人間と同じ機能だったのだが、身体を改造して人間の範疇から逸脱した頃に問題が起きた。
人間の発展型という形で強化を図っていたので人間の内臓でどうにかなったし、臓器の個数を増やしたりすることで解決したが、人間の範疇を超える改造では内臓が付いてこれなくなった。
特に皮膚細胞の構成成分は通常の内臓では生成できない、強化された筋肉や骨、神経などの維持が食事から栄養摂取量ではたりなくなったのだ。
そこで内臓の改造を行い、摂取した栄養や水分は根こそぎ体内の細胞に備蓄できるようにしたため排泄物が極端に少なくなったのだ。
食事の量自体は通常の人間の量と変わらず、その気になればゆっくり食事すれば1日中食べ続けることも可能だったりする。もっともその場合、食べ物を消化するためにカロリーを多く消費することになるので食事をする意味が減ってしまうが。
つまり、大昔にあったアイドルはトイレに行かない、というのをほぼ実現されているのだ。
おかげでミソロギアのトイレという施設はあまりなく……未改造であるカミーユ達は大変な時があったりする。
私?私は基本行動範囲が限られているので困らない。