第三百二十七話
「ふぅ、さすがに疲れた。そろそろ年か」
「駄目ですよ。そんなこと言ってるとまたアレンファーターに取り替えられちゃいますよ?」
「それは勘弁してほしいものだな。さすがにコロコロと肉体を弄られるのはたまらんな」
「それに年っていうけどもうこれで3日も徹夜してるから年じゃなくて普通に疲労だよ、ジャミトフおじいちゃん」
「これは痛いところを突かれたな」
ジャミトフもアレンによる魔改造によって常人とは違う感覚になってしまっていた。
しかし、その改造もプルシリーズとは違った方向に施されている。
常人ではない身体能力であるのは当たり前として、プルシリーズほどの対比パワーは無い(身長や体格上、内蔵する筋肉量が変わるのでジャミトフの方が筋力が上だが、比率を同じにした場合プルシリーズの方が筋力が上だったりする)が、仕事、特に書類仕事を行う際には省エネモードとなり、疲労の蓄積を軽減するようになっている。
それによって3日程度徹夜しても脳機能が落ちずに作業を行うことが可能となっている。
プルシリーズの改造が兵士仕様というならこちらはデスクワーク仕様と言ったところか、ちなみに開発研究専門のプルシリーズもデスクワーク仕様である。
といってもジャミトフが3日連続で徹夜しているのは日常ではない。
負担が軽減されているのは間違いないが通常よりも負担があるのも間違いないからだ。
ならなぜ徹夜をしているのかというと——
(ニューオーダーによる海賊行為の沈静化、常識的に考えればネオ・ジオンとエゥーゴのアムロ、ティターンズのニュータイプ部隊による討伐の成果と見えるが……どうもきな臭いな)
一般的な政治、外交、諜報を一手に担うジャミトフは元総帥という肩書は伊達ではなく、連邦に根付く人脈を使って情報収集を行っていたのだが——
(交易所にいる海賊もどきは今も物資を買い漁っているし、ジーン……コリニーもコーウェンも諦めている様子はない。ゴップが動いているとも聞く。ヤツの手がどこまで長いか私も想像がつかん)
ゴップはジャミトフがティターンズの総帥だった頃ですら配慮した相手である。
財政界にパイプを持ち軍人としての経歴など両者には共通点も多かったこともあり、お互い協力するまではいかなかったが、中立を保った。つまり、金持ち喧嘩せずというやつである。
(私が失脚した以上、軍歴を持つヤツを頼りにしている者も多くいるだろう……アースノイド、スペースノイドといつまでも愚かな……ブレックスが生きていれば上手くまとめられただろうが)
ジャミトフは自身が地球連邦の掌握を失敗した場合、エゥーゴのブレックスが台頭し、地球連邦は親スペースノイドはまとまり、結果的にだがジャミトフが目指すアース(地球)主義、つまり人類の母である地球を守ることに繋がると考えていた。
(シャア……キャスバル・レム・ダイクンでは地球連邦はまとまらん。あの箱がある以上は、な。ニュータイプを是とするシロッコも同じ、そしてネオ・ジオンも……皮肉なものだ。現在の軍閥のほとんどがスペースノイドが握り、政治はアースノイドが握っている。せめて軍に純粋な地球連邦所属者がいればよかったのだが……なんと歪な。この歪は新たな戦乱の種となるか、それとも奇跡でも起きて正されるか)
こういう歪みはいつか爆発する。
ただ、どういう形で爆発するのか、それは過去の歴史で誰もが学んでいても爆発することはわかっていても柵で正せず、そしてどこに向かって爆発するのかは予測がつかないものだ。
(地球圏から離脱するまで持つかどうか……最近、地球連邦の高官達がアレンの不老もどきの技術を独占しようと動いているという話もあると聞く)
不老と不死と健康は金の亡者を引き寄せてくる。
その内2つを実現しているアレンは喉から手が出るどころか足も心臓も出そうとしているとジャミトフは読んでいた。
(この前のネオ・ジオンとの模擬戦で少しは静まればいいのだがな)
ミソロギアの主力兵器であるキュベレイ・ストラティオティスの情報を解禁したのはこういう理由もあった。
人間というのは喉元過ぎれば熱さを忘れるもので、恐怖なんてものは割とすぐに忘れ去る。
この場合だったら、あの当時と違って最新のMSが揃っているから大丈夫だ、ネオ・ジオンが出てこなければエゥーゴが出てこなければ大した敵ではないなどという話がまことしやか囁かれているとジャミトフの耳に入った結果、改めてミソロギアの武威を示して抑止とすることを目論んでいた。
「有能過ぎるというのも大変だな」
「何よー。私達の仕事にケチつける気ー?」
「私達は常にパーフェクトなのです」
「常には言い過ぎですが、力は尽くしているつもりですが……」
「いや、すまん。お前達の働きは問題があるわけじゃない」
これまでミソロギアの情報はあまり出回っていなかった。
その理由というのは隠蔽していたというのもあるが、1番の情報が漏れるはずの戦闘行為では完勝した上にあまり長時間戦闘になったことがないことが原因で、あまりに得られる情報が少なかったからだ。
相手からすると、味方がヘボいのか敵が強いのかそれとも両方なのかが理解できないぐらいの情報量しかなかったのだ。
「……ハマーンの引退を早めることも視野に入れてもらわないといけないかもしれんな」
「なかなか上手くいかないものだな。人間の脳とは扱いが難しい」
私はこの前のキッチン爆破事件で、人間が学ぶべきことが多いことを改めて思った。
そこで新たな学習スタイルの開発を着手した。
脳に直接情報を送り込むデジタル学習を試みたのだが、どうも学習自体は上手く行っているみたいなんだが上手く情報を引き出すことができないようなのだ。
ただし、成果がないわけではない。
もう1度学び直すと連鎖するように情報が繋がり、普通の学習よりも確実に学習が早くなった。
「問題はどうもニュータイプ能力に悪影響が出そうなことだな」
いきなりプルシリーズで実験しなくて正解だったな。
脳に直接情報を送り込むというのはやはり無理があるのか?