第三百二十九話
連邦の引退した高官の取り込みは思った以上に簡単に進んだ。
私は興味がなかったのですっかり忘れていたが、不死鳥の会のメンバーはアナハイムにシェアを奪われて息絶え絶えであったとはいえ、地球では名の知れた資産家や企業が集まりだ。
そんな彼らはアナハイムに追い出されたのは一年戦争中盤から、つまり連邦との繋がりがある者は現役かもしくは引退した者達で私の狙う年代と一致した。
そして当然、不死鳥の会のメンバーとその引退高官はお互い顔を知っている。そうすると方やヨボヨボシワシワのジジィババァ、方や20代の頃と変わりないピッチピチモッチモチの若々しい青年少女が並ぶわけだ。
それはもう凄い食いつきだったそうだ。DNA検査を行って本人確認を行う念の入れ用だったそうだ。
まぁ事情を知らなければ私も「随分腕のいい彫刻師を見つけたな」ぐらいは言うだろうな。本人確認は思念で十分だが。
ところで私の要望では老い先短そうなやつを選ぶようにお願いしたはずだが?とジャミトフに問うと私の要望を無視したのではなく、私が不死鳥の会をただの取引先としてしか興味がないことに危機感を抱いて、素早く、しかし連邦の重鎮という要点を押さえて選んだそうだ。
ここは要望とは違うと叱責するよりもよくやったと何か与えた方がいいのだろうか?部下でもなんでもないのだが……そもそもこの不死鳥の会に関しては私はノータッチなのだし……とはいえ、借りを作っておくのも面倒なので彼らが好む技術を渡しておく。
私としては手慰みで考えた技術だが、彼らには随分魅力的に見えるものが多いようだからな。
それはともかく、引退した高官達は念入りに本人確認をした後、恐る恐るといった感じでこちらに来るようになった。
ちなみに私の施術中は監視役が付けるだのカメラで録画するなど色々言っていたが要求は全て呑んだ。たかが数分の作業に色々言われるのが面倒で仕方なかった。(相手は数分で終わるなんて想像もできていないのだから当然なのだが)
更に言えば施術に関してはそもそも秘匿している技術は触手に使っているサイコミュぐらいで他に目立った技術は私のゴッドハンドぐらいだがそれは隠さなくても、この天才である私に匹敵する者などいないし、匹敵するなら見せなくても行えるだろうから問題ない。
「大体培養した本人の細胞を切って貼っ付けるだけだ。医者なら誰でもやっていることを私のレベルでやっているだけなのだからな」
機械なんてせいぜいメディカルチェック機器と万が一なんぞ無いが患者とその関係者への配慮として輸血用機器ぐらいしかない。
施術が終わった後は皆、狐につままれような顔をしていたが私に掛かれば造作も無いことだ。
そんなこともあって引退高官の取り込みは順調に進み、いつの間にか連邦から特別医療施設支援、最先端医療開発支援、難病治療施設認定、特別介護施設認定、特別福祉施設認定などなど意味が重複してないか?とツッコミ満載な色々な補助金やら支援金やら貴重物資などを優先的に回してもらえるなど優遇を受けることになった。
金銭だけで、その金額は6年ほどでコロニーが1基建築できるほどの金額である……ん?ミソロギアを無償でもらえたのは破格の報酬だったかもしれないな。
改めて地球連邦の国力と高官達の私利私欲っぷりを実感した。
ただ、もっともありがたいのは物資の購入が素早く、量も質も安定するようになり、副次効果としてはその物資は不死鳥の会を経由するので不死鳥の会の復権がある程度なされたことで安全が担保されたはずだ。
患者という愚物が大量に湧いたせいで少し遅れたが主力機の後継機が完成した。
名前は考えるのが面倒なのでキュベレイ・ストラティオティスIIとした。
ただし、今までと違い、キュベレイ・ストラティオティスはIIに移行するのではなく、これからも生産することが決定した。
これには時の経過によるプルシリーズの成長によってドクトリンの変化を迫られることとなったからだ。
今までは一部を除いての単一機種、つまり一部の例外がクィン・マンサとプルツー専用機であるキュベレイ・エスティシスで、そして単一機種である主力汎用機キュベレイ・ストラティオティス、そして緊急戦力であるため更に例外である訓練兼支援機キュベレイ・アルヒと用途が違う火力補助(過多)のパノプリアで構成されていた。
しかし、プルシリーズの成長はわかりやすく言えば以前までは5〜8歳程度の差だったが、現状は5〜16歳と大きく差が広がっている。
となるとMSに求められるスペックが違ってくるのは当然だ。
そこで今回の後継機は厳密に言えば後継機というよりエース機……ミソロギアの風潮に合わせて言うなら成人機の開発のような形になってしまった。
そもそもキュベレイ・ストラティオティスそのものが通常のMSとは隔絶した性能をしているのだから仕方ないところがある。
そして成人、つまりそれ相応の経験を積んだプルシリーズとなると自身の好む戦闘方法が生まれてくるのも道理で、それに合わせるようにするため装備換装システムを導入することとなった。
ベースとなる頭部と胴体部に四肢とバインダー毎に武装や特殊装置を用意した。
正直に言うと生産効率的にはあまり嬉しくないシステムだ。特注部品の数が多くなる上に通常の戦闘はではあまり使われないパーツもあるだろう。
ただし、プルシリーズの好みに合わせた武装や特殊装置を選ぶことができるというだけあって戦闘効率は爆発的に向上する。
結果的に生産効率がよくなるという試算が出たので自分を信頼しての決定だ。
それゆえ誰かにどれがどうと説明するのはかなり難しいことになった。
見た目で言うと1番の変化はキュベレイの頭部の変更か?正確に言えば頭部の後方に伸びるアンテナ1つだったのが2つになったことでレーダーの性能が単純に倍になった。その変わりなんとなくピエロっぽく見えるのは私だけの秘密だ。
他に目立った武装で言えば腕部で言えば、Iフィールド発生装置が取り付けられたものや近接物理特化で杭を打ち込むもの、低出力ながら連射性を高めたビーム・マシンガンのものなど様々なバリエーションが用意されている。
脚部も色々用意した。
今まで同様の2本足はもちろん、着地を想定しない推進機能のみのドラッツェの足……あれは足と言えるのか?などを用意した。
正直通常の2本足は格納庫への格納が楽という以外にメリットがなくなっているのが現状だ。なにせ宇宙戦で着地することなんてほとんどない。
以前までは治安維持のためコロニー内部の占領のために乗り込むなどというものもあったが今は無人機カヴリで対応ができるようになったため本当に機会がなくなってきている。
「まぁおそらくこのバリエーションでデータ取りして新たな後継機を作ることになるだろうけど……そう考えればこれは後継機じゃなくて試作量産機か?」