第三百三十話
まずキュベレイ・ストラティオティスIIのスペックはどんな組み合わせにしてもストラティオティス(以降初代)の防御性、機動性、運動性、サイコミュが最低確保される。
「おおお!凄い火力!」
キュベレイ・ストラティオティスIIが実装されたシミュレータでプルシリーズは驚きの声を上げる。
それもそのはず、今まで自分達が操ってきたIフィールドを展開するキュベレイストラティオティスが超遠距離から行われた狙撃ライフルの一撃で撃破されたのだからその感想は当然ことだろう。
これも1つの変化である。
これまではパノプリア以外は内蔵武装ばかりだったがそれ以外の武装にもアレンは着手した。
今まではプルシリーズが未熟だったため武装はサイコミュで制御がたやすい内蔵武装だけにしていたがこちらも成長に合わせて解禁となった。
「次!」
狙撃銃で新たな標的に狙い定め、撃とうと構えるとそこに割って入るのはまた違った武装をしたキュベレイ・ストラティオティスII。
それを確認したが問答無用で引き金を引き、先程キュベレイ・ストラティオティスを蒸発させたビームが放たれ——しかし、その標的となったキュベレイ・ストラティオティスIIに命中することはなかった。
「Iフィールド連結バインダー、Iアームの動作確認」
「何よそれー?!意味わかんない!」
「Iフィールド発生装置を搭載したバインダーを4基と腕部を付けているんだ。貫けなくて当然だ」
連結バインダーというのはキュベレイシリーズやクィン・マンサのバインダーがほぼ直接肩に施されているのに対してアームによって連結されているバインダーのことだ。(平たく言うとクィン・マンサとクシャトリヤのバインダーの違いみたいなもの)
連結バインダーは最大で12基付けることが可能だが、それは連結バインダーの機能次第でサイズが変わるため上限は変化する。
今回の場合はIフィールド発生装置とそれ用のジェネレータを搭載している連結バインダーなためサイズは大きく、最大で8基搭載可能だが重量そのものが重くなり過ぎて機動性が初代を下回るためアレンに禁止されている。
初代を下回る機動性は作戦行動に支障をきたす。特に難しいとされる撤退戦などでは鈍足なものに合わせてしまうと悲惨なことになりかねないための制限である。
「隙あり!」
だが、下限は定めているが上限は定めていない。
今度のストラティオティスIIは脚部が通常のMSのそれではなく、ドラッツェのような大型スラスター、連結バインダーはIフィールドのそれとは違って大型スラスターを4基、腕部にもスラスターが内蔵されて完全なスピード特化機の様相で、手に持つのはビームサーベル、しかし——
「悪即斬!」
その刀身は80mを超えるそれをIフィールド特化機と化したストラティオティスIIに斬りつけ——
「残念だが、パワーコンセプトではこのIフィールドを貫通することはできない。ハイパワーコンセプトで出直してこい」
——れなかった。
ビームサーベルはIフィールドと接触し、その刃は止まられ、現在進行系で火花を散らしている。
パワーコンセプトというのはアレンが定めた装備の基準であり、ハイパワーコンセプトもその1つだ。
ハイパワー、パワー、バランス、ライト、ハイライトというコンセプトがそれぞれのパーツ、武装に用意されている。
このIフィールド特化機は全てハイパワーコンセプトを装備しているため、同じハイパワーコンセプトか実弾兵器でないと貫通することは難しいほどの鉄壁を誇っている。
それに対してビームサーベルで斬りつけた側のストラティオティスIIはハイパワーのスピード特化であり、スラスターによってMSの中で世界最高の速度を実現している……が——
「——ゴフッ」
「あー?!また無茶な馬鹿妹が潰れたよ!運搬係は早く運んでってー!」
ミソロギアのシミュレータは掛かるGまで再現する。
そして世界最高の速度のGとは如何ほどか、少なくとも訓練された軍人程度では耐G装備があろうと内臓が潰れてしまうようなGである。
そしてアレンの魔改造を受けたプルシリーズでもそれは負傷の重い軽いの差はあれ、耐えられるものではない。
本来ならこの仕様の装備はゆっくり減速、大回りに旋回することでGを軽減することが前提で作られている。そしてビームサーベル装備ならそう簡単に足を止める自体にならないのだが……相手が悪かったとしか言いようがない。
もっともこの速度重視のハイパワーコンセプトは妙に人気で、使いこなせもしないのに挑むプルシリーズが後を絶たなかったりする。
治療は軽傷者は治療カプセルへ、重傷者はアレンがしている。ゆえにプルシリーズが無茶をしていることはすでに知っているのだからとっとと止めて、というプルシリーズの意見が出るのは当然だったがそれらは却下されている。
データ取りという側面も当然あるし、新しい世界(速さ)に適応する個体が存在するのかという興味もある。しかし1番の要因は、1度自分で痛い目にあってみないことには本人達も納得しづらいだろうというアレンの親(鬼)心でもあった。
不満を燻らせたままで実戦でその不満が爆発というのがアレンの最悪な想定であった。
…………ニュータイプ能力の向上が多く見られているのはおそらく関係ない…………はずもない。
「あちゃー、これ肺が潰れちゃってるね。またアレンパパに交換頼まないと……あ、肝臓も駄目っぽい?」
「脳が無事なら大丈夫みたいだし平気平気」
「そういえばアレンファザーは脳のストックなんてことを研究していると聞いたが本当だろうか」
「もう意味分かんないよねー。私達が無知なんじゃなくて多分アレンパパが別次元なんだと思う。さすがアレンパパ」