第三百三十二話
人間というのはいつまで経っても愚かな存在らしいな。
ジャミトフからの報告への感想がそれだった。
一年戦争は起こるべくして起こった戦争だ。
宇宙という新たな大地を得た人間が1度も大戦をせずに次に行けるはずもない。
エゥーゴとティターンズの内乱も同じだ。勝者側の主導権争いが起こるのも当然だ。
しかし、今回の私達をターゲットにする意味はほぼない。それに何より戦わずに経済封鎖してしまえば生産能力が低いミソロギアはたやすく……はないかもしれないが、少なくともかなり苦しむことになる。
まぁ私を恐れる安直に武力で早く倒してしまいたいという気持ちもわからなくはないが、恐れるものに正面から戦うなど愚かなことだ。
私達の戦力はある程度示したのだが……だからこそ謀略で他者を矢面に立たせたのだろうが……天罰(天才による罰ゲームの略)を下すべきだろうか?具体的にはこの前できた毛根に好んで住み、毛髪を餌とする寄生虫でもばらまくか?ちなみに迂闊に駆除しようとすると毛細血管から体内に逃げ込む極悪寄生虫だ。それとも耳の奥で聞こえるか聞こえないかギリギリの範囲でキーキー鳴き続ける寄生虫の方がいいか?それとも食欲旺盛でセメントや合成樹脂すらも食べれて他の昆虫とも繁殖できるゴキブリを解き放つ……のは私も面倒なことになりそうなのでやめておこう。
「どうするんですか?連邦を相手にするなんて無謀ですよ」
報復方法を考えているとスミレが何やら言ってくる。
ちなみに今はジャミトフの報告を受けて、ミソロギアのこれからの方針を決めるための会議を行っている最中だ。
メンバーはスミレ、ジャミトフ、カミーユ、シロー、ジュドー、ビーチャ、リィナ、そしてプルシリーズからはプル、プルツー、プル3、そしてプルツーの補佐官を務めているプル22(2繋がりでプルツーに憧れている)
「正確にはエゥーゴとティターンズ、後はどうするかわからないネオ・ジオンが加わるぐらいだから大したことはないだろう」
「……それって実質宇宙で活動している軍全てじゃないですか」
リィナがつぶやく。その顔色はかなり悪い。
そしてリィナと同様にジュドーとビーチャも同じようで、ここに来てまだ短いシローの顔色も変わらず悪い。
「連邦兵は動かんだろうから全軍ではない。まぁ精鋭なのは間違いないがな」
連邦兵の最近の役割はわかりやすい。
防衛軍や駐屯軍というような役割が与えられているが、簡単に言えばお留守番で実働部隊がエゥーゴとティターンズとなる。
だからこそ私達とエゥーゴ・ティターンズと戦うことになるわけだ。
ただ、リィナにとっては些細な違いにしか思えなかったようで、そうじゃないという思念が伝わってくる。
コロニー育ちでミソロギアに来てからも主に生活物資の生産部門(服や装飾)で活動しているリィナや戦闘訓練こそしているが戦略はまだ未習得のジュドーとビーチャには情勢が把握できていないようだ。
連邦軍が参戦の有無はこちらの対応が大きく変わる。
エゥーゴ、ティターンズ、ネオ・ジオンが全土から戦力を結集した総数は大体MSは大体5000程度、連邦は単体で万を超える。ただし連邦軍は全国各地に分散して防衛、駐屯を主としている関係上、結集することなど到底できないが、一部地域から引き抜くだけで1000〜4000程度が導入可能なのだ。
これはMSの数だけで艦艇の数を入れてない数だ。
さすがにこれほどの戦力を敵に回すのは上手くない。
「……プル達の被害は免れんぞ」
さすがお爺ちゃんポジションであるジャミトフ、ブレてないな。
私達の現在の戦力であれば連邦軍さえ参加しなければ負けることはない。それはジャミトフもわかっているようだ。
負けることはないが、被害なくなどと都合よく行くとは私もジャミトフも思っていない。家族同然のプルシリーズのことを思えば戦争の回避に専念すべきだろう。
————しかし。
「是非もなし。所詮私達が積み重ねてきたのは机上の空論。絵に描いた餅。それに実態を持たすには実戦しかない」
「……それがプル達で死ぬことになっても、か」
次はシローか。
まぁまだ付き合いが短いゆえにプルシリーズの強さもわからない以上、ただただ無駄に犠牲を増やすことになるのではないかと疑っているようだ。
「人はいつか死ぬ、なんて言葉は私が使うと陳腐だが、人は何かの拍子に死ぬことはままとしてある。それに——」
「皆様の心配するお言葉はありがたいが、それは私達の存在意義を否定することになる。私達は父様のために存在し、父様のために死ぬ。最も恐れることは死ぬことではなく無意味な死。そして此度の戦いは父様を否定する争い。逃げるが最善であっても私達にとっては正しくはない。父様を否定することは私達を否定することと同義」
「プルツーは相変わらず固いよー。こういうのは一言でいいんだよ?パパの前に立ちはだかる者は玉砕あるのみ!ってね」
異論はない、とプル3もプル22も頷いて応え、良い思念を放っている。
思えば今まではネオ・ジオンへの助勢や海賊退治、アナハイムの実験の付き合いなど小競り合いばかりで本当の意味で自分達が主体となって行う戦争というものは初めてである。
ある意味プルシリーズがもっとも求めていたものかもしれない。
プル達の発言で覚悟を悟ったのか不安には思っているようだが口には出さないようだ。
ただ、不安があるのは私も同じだ。
シャア、アムロ、フル・フロンタルが揃って敵に回るということになった場合、どうなるのか……。