第三百三十四話
思春期という言葉であることを思いつく。
それは——
「かわいい!」
「これいい!」
「私達より大きい……」
「乗りたい乗りたい!」
「……女の敵」
プルシリーズが騒いでるのはシミュレータのモニターに映し出されているのは白い肌を持ち、腰まで伸びる艶やかな長髪、豊満な胸、引き締まっている腹部、魅惑の臀部を持つ女性……のようなMDである。
期待している(嫉妬している)プルシリーズには悪いが、これはMD。つまり無人機が前提なので搭乗することはできない。
この女性型MDの目的は、どこの軍にしろ、軍人は男の割合は大きい。
そして男というのはやはり女子供には暴力を振るうのに躊躇する。
殺し合いにおいてその躊躇は致命的なものとなる。
テロリストが子供を兵士として使う最大の理由だな。
余談だが次に使う手段は大人でもそれなりの見返り(恐怖に実害)を期待できる自爆テロだ。自爆テロの最大の売りは薬漬けや洗脳(宗教もこれに入れる)、人質を捕ってしまえば誰でも簡単に行える上に安価、そして何より成功、失敗に関わらず治安維持や捜査のために敵の労働力、資金、時間を効率よく割かすことができることだ。
本題に戻るとして、女性型MSで本当にタイムラグが発生するのか検証してみることにした。
ちなみにプルシリーズは0.00001秒程度の誤差しか出なかったのは訓練の賜物なのだろうか、それとも女性型であってもやはりメカらしさを取り除き、生身の人間に近寄らせるべきか?人工皮膚は……生産が面倒だな。となると合成樹脂で……いや、そうなると機体が重くなるか。
さて、まずは日が浅いしブランクもあるがおそらく1番の激戦を経験しているシロー・アマダから試した。
このテストは事前に通知せず、普通のシミュレーション中に突然現れるように設定してあ——
「な、なんだあぁ?!」
言っているそばから引き当てたらしい。
収集しているデータを見てみると明らかに動揺し、ライフルを向けるも引き金を引くのを躊躇した。その段階で女性型MSが動き出しライフルをシローに向けるがさすがは実戦経験豊富で訓練も施したかいあって回避行動は上手い。
「やはり初見ではなかなかの効果だな」
まぁシミュレーションだからと油断していたこともあるだろうけど、な。
さて、次のテストを行う。
続けて行われるのは——
「——はっ?!アイナ?!」
女性型MSの髪は最初は腰に掛かるほどだったのが見る見るうちに短くなっていき、髪の癖までアイナ・サハリンのそれとなり、更には顔も目や口、鼻などが再現された。
「やはり女性型以上に動揺が激しいな」
今回はアイナのデータで再現しているが、このシステム……ドッペルゲンガーシステムとでも名付けるか……は、私の指揮下限定ではあるが、相対する敵の母親、妹、などの家族から初恋の相手や憧れていた近所のお姉さん、幼馴染など強い思いを抱く女性の姿を再現するシステムである。
ちなみに私の指揮下限定なのは私が相手の強い思いを抱く女性を読み取り、反映するからである。
さすがに肌の色などは再現できないためマネキン……いや、着色前のフィギュアというべきかな。しかし、その動揺は生半可なものではないだろう。
自分の大事な存在を知られているというのは兵士達の精神に影響を与えるか、別に生死が掛かっていないシローですらこれなのだ。今まさに殺し合い前、もしくは殺し合いの最中である時にそれを目の当たりに心境とは如何程のものか、想像するだけで楽しみだ。
特にアムロやシャアにララァを見せてやりたい。喜んでくれるだろうか?
「それにしても宇宙なのが残念だ」
実は次の段階もあるのだが、宇宙では効果的ではない。
それは、喋るのだ。
もちろん本人の声ではなく、私が思念で読み解いた声紋データを強化人間人格OSに送り、即興で作られた合成音声で喋るのだ。
さすがに柔軟に対応させるには無駄が多すぎるのでセリフはある程度決めていた。
例をあげると「助けて」「くっ、殺せ!」「ちっさ」「できちゃった」「禿げてきたわね」「臭うわね」「一緒に洗濯しないで!」「早すぎ」「あ、いたの」などだ。
ただ、宇宙空間ではスピーカーで伝えることができないし通信だとせっかく顔まで付け、口まで動かしているのに微妙過ぎる。
「さすがに1対1で負けるほどの動揺は誘えないか」
シローは見事アイナの姿をしたMDを撃破した……が、精神的ストレスは通常の戦闘のそれと比べると大きいものに——
「アレン!!」
とりあえず、起こっているシローがリアルファイトの形相でこちらに向かってきているとのでプルシリーズに相手を頼む。
私はデータ解析と女性型MDの調整で忙しいのだよ。
女性型MDの調整も終わり、続いてカミーユ、ジュドー、ビーチャ、モンドの順にテストを行った。
カミーユの場合は通常状態の女性型MDでは普通に対応され、続いてはファ、フォウ、ロザミアの順で変化させて動揺を誘ったが、結果は最初の反応速度が0.3秒ほど遅れる結果になったが次からは普通に対応されてしまったが。
本人曰く「俺はアレンとの付き合いは長くなったからな。耐性はそこそこあるつもりだ」と言っていた。
しかし逆を言えばそのよくわからない耐性を有していながらも0.3秒反応が遅れる程度には動揺していたということでもある。
熟練の者達の0.3秒は生死を分けるのに十分な時間であることから効果は実証できたと言えるだろう。
ジュドー相手の場合は少し特殊で、女性型MDの通常状態では狼狽して立ち直るのに時間がかかったがリィナに変化させると「リィナがそんなにスタイルがいいわけないだろ!」と叫びながら瞬く間に撃破した。
さすがに体型を変化させる機能は搭載していない。頭部だけならともかく、体全体ともなると今の体型が維持できず、ぽっちゃりしたものになってしまうし、機体スペックが後期に生産されていたザクII程度にまで落ちてしまうことになるだろう。
ビーチャは女性型MDの時は健闘したが、エルに変化させると思考停止状態になったようで動きが止まり、撃墜され、モンドは終始アワアワして変化する前に撃墜されていった。
「新兵に対しては十分な効果が見込めそうだな」