第三百三十五話
時は遡り、ミソロギアが連邦、正確にはエゥーゴ、ティターンズと対決することが事実上決定したことをハマーンが知った時の話。
「なるほど、ザビ家が連邦を対決することを決断した気持ちがわかった気がする」
やっともう少しで解放されるという思いに冷水をぶちかけられた思いのハマーンはそうつぶやいた。
都合がいい時は利用して、都合が悪くなると切り捨てる。国や組織とはそういうものであることは自身も国のトップであるハマーンだから百も承知である。
それでも切り捨てられる側にとってはたまったものではない。
「まぁアレンはそんなこと気にもしないだろうし、戦力を増強して徹底抗戦の準備をしているようだし……私も随分と苦労させられてきたのだから、存分に暴れて後悔させてやろう」
ネオ・ジオンの宰相ともなると連邦との外交交渉を行う機会は山程あり、そして普通の交渉ができないクズ、ゲス、外道は腐るほどいた。
利権の譲渡や賄賂の要求はもちろんのことハマーンの身体を狙う者もいたし、さらなる外道はミネバ・ラオ・ザビを狙う者までいたのだ。
利権、賄賂程度ならともかく、後者2つが許容できるはずもなく、『すぐに』殺すわけにもいかず、その場ではテキトーに痛めつけて追い返し……その後はそういうことを要求してくる者など叩けば埃が舞うのでスキャンダルを起こし、そうして追いやったあとで消すという面倒なやり方を取らざるを得なかった。
「……ハマーン、私達は……ネオ・ジオンはどうすればいいのだ」
ここのところ行動を共にすることが多くなったミネバは自分達、ネオ・ジオンはどう動くべきなのか判断に迷い、黒いオーラを発するのを止めないハマーンに問いかける。
「それは宰相として聞いているのか、それとも私個人として聞いているのか、どちらでしょうか」
「できれば両方聞きたい」
「ではまず宰相として答えましょう。私に遠慮などせず討伐に出るべきです。私達を世界の敵と宣言した上で討伐に参加することで連邦との繋がりを強固にするのです」
「……ハマーンはそれで良いのか?」
あまり気乗りせずネオ・ジオンの宰相を務め、それらを一身上の都合で捨てるとはいえ、今まで所属していた組織に追われることになる。
しかもそれはハマーン個人だけでなく、想い人も対象……いや、想い人こそその追われる張本人であるのだから本人から出た言葉でも再度確認してしまうミネバの気持ちはわからなくはない。
「この宰相としての答えはネオ・ジオンを維持することを命題としてのこと。ネオ・ジオンを離れた私のことなど気にすることはありません。私の首を上げることができたなら新たな指導者として受け入れられるでしょう。ただこれは組織としては正道、しかしそれが適うかどうかは別問題ですが」
「どういうことだ」
「ここからは私個人の意見として聞いてもらいますが……簡単に言えば私達に勝てる国はこの宇宙に存在せん」
アレン達ミソロギアを正面から打ち破るとなると現実的に無理な連邦の軍を集結させるぐらいのことはしないとならない。
ネオ・ジオンも国を傾けるほどの軍拡を行うならもしかすれば……という程度である。
「そして私達は……アレンは誰が相手でも手加減などするつもりは毛頭ない」
そう断言するハマーンの表情は宰相の顔ではなく、素の表情だった。
それが余計にミネバを不安にさせる。
「つまり、討伐軍部隊は——」
「ほぼ消滅させられるでしょう」
戦いに絶対はない。
しかし、戦争に負ける未来はない。
ミソロギアの敗北はアレンの死以外にない。
そして——
(アレンが死ぬのは私やプル達が死んだ後。そして私達が全滅するなんてあるわけがない)
戦力差はどんなに多く見積もっても1対20、数字だけ見るとジオン公国がブリティッシュ作戦を行った後よりもひどい戦力差であるが——
(1人で20機落とせばいいというのは気楽なものよね。今まで殺すに殺せない敵に比べれば)
と、剛毅なことを考えていた。
ジオン公国とミソロギアの決定的な違いがいくつかある。
兵士や兵器の差などもあるがミソロギアはミソロギアの維持が目的であること、そして戦いは1戦で終わることだ。
1度凌げばその後は地球圏外へと旅立ち、追撃があったとしてもその数は知れているし、本来なら命掛けとなる殿(しんがり)はMDが務めることで実質消耗は物資のみという最高の駒が存在するため1番難しいとされる撤退(正確には離脱)は問題ない。
「……ミソロギアが、アレン博士が凄いことは知ってますけど連邦とネオ・ジオンを相手に勝てるほど凄いのか?」
ミネバはミソロギアの戦力に関しては半信半疑なところが大きかった。
クィン・マンサやノイエ・ジールなどを見ればその開発力には目を見張るものがあるのは知っているし、自分のクローンで兵士の充実はされているということは知っている。
しかし、それがどの程度の規模であるのか、どれほどの強さなのかは知らずにいた。
それは正規兵士ですら把握できていないのだから正式に王の座についていないミネバが知らなくとも仕方ないことである。
「ミネバ様の姉妹は私と同等か若干劣る程度パイロットでそれが100人以上、しかも全員がクィン・マンサに乗っていると言えばわかりやすいでしょうか」
「……え?」
ミネバもさすがにハマーンの強さは知っている。
ネオ・ジオンの武の象徴といえば昔はアナベル・ガトーや少し前までフル・フロンタルの名が強かったがティターンズとの決戦では圧倒的強さを披露し、そして最近まで消極的政策が目立ち陰っていたが模擬戦で武断派を蹂躙したことでその栄光を取りも出した。
(そんなハマーンが100人以上もいる?)
「討伐には不参加……あ、連邦との関係が悪化……いや、それどころか下手をするとネオ・ジオンがミソロギアに加担、下手をすると主犯にされて責任問題?……どうしたらいいの?!」
「どちらもいい面悪い面があるのでミネバ様がお決めになればいいかと」
イイ笑顔で言い放つハマーンにちょっとイラッとしたミネバは今ここでハマーンを捕まえた方がいいんじゃないかという考えが思い浮かぶが、それをやってしまえばサイド3内にいる姉妹やハマーン親衛隊が動き出して内乱突入、そしてミソロギアも参戦してくる未来が見えたので否決となった。
ミネバ様ドンマイ!
「ちなみにミネバ様2人ともアレンの魔改造を施されていないので姉妹ほどになるのはおそらく不可能です」
「希望がなさ過ぎる?!」
ミネバ様ドンマイ!