第三百三十六話
現在プルシリーズは2500体存在する。
上位ナンバーは固定で100体、中位ナンバー900体、下位ナンバーが1500体という内訳となっているのだが、中位ナンバーの内400体は未だに海賊相手すらも経験をしていない。その主な理由がMS不足だ。
いくら海賊相手でもキュベレイ・アルヒで戦場に出すわけにはいかないし、キュベレイ・ストラティオティスとIIは合わせて150機、そして母艦は4隻と遠征を行える部隊はかなり限定され、貿易航路の治安はほとんどMDで保たれているので仕方ないことではあるがこのまま戦争に突入というのは不安がないわけがない。
だからといって本当の殺し合いを経験することは難しい。
そこで考えたのは——戦力の増強だった。
根本的な解決を行えないなら戦術、戦略的な不安を取り除くことを考えた。
「それでこんな船を用意するあたりアレンも妙なところで過保護だよな」
「最大戦力戦艦250隻、MS3000機を相手にするかもしれないというのに随分と余裕だな。カミーユ」
「……いや、悪かった。ちょっと調子に乗ってたな」
気持ちはわからなくはない。
自分に最適化された専用機に一騎当千と謳っても不思議ではない私の作品達(プルシリーズとMS)だから錯覚に陥っても不思議ではないが、有人機が150、無人機が500合わせて1000も届かない戦力で3000を超える大軍との戦いを想定していることを忘れてはいけない。
……まぁファンネルを1機と数えた場合、MS1機に付き10機のファンネル、つまり1500機と嵩増しする計算方法もあるが、とてもファンネルとMSを1:1で計算することなんてできない。せいぜい0.3がいいところだろう。
というわけで戦力の増強を行うために用意したのがこの大型母艦である。
「それにしても大きいな」
「参考にしたドロス級と同じサイズだからな」
「ドロス級?」
一応ジオン公国の切り札とも言えるドロス級はあまり情報が出回っていなくても不思議ではないか。
確かドロス級空母はア・バオア・クー戦に全て沈んだはずだし、連邦も詳細がわかっていない可能性があるな。
「ドロス級空母、記憶が確かなら宇宙で初にして唯一の空母というカテゴリーされている艦で、MSの搭載機数はなんと140を超え、更にガトルやジッコなども30機以上を搭載し、更に長射程で高出力の主砲でギレン・ザビの手腕と相まって数に勝る連邦の艦隊を抑えるほど……だったらしい」
「らしいって」
「私はその頃グラナダで研究していたからアクシズに渡った後にまとめられたデータ上のことしかわからん。ただ、ジャミトフからの証言で嘘ではないようだ」
こういう時に生き証人がいると話が早くて助かる。
余談だが、このドロス級とグワジン級、ついでにビグ・ザムの火力を見た一部の連邦高官は大艦巨砲主義に目覚めてバーミンガムという戦艦ができたらしい。もっともガトーが操るGP02のアトミック・バズーカに焼き払われてしまったようだが。
更に余談を続けると、このアトミック・バズーカで焼かれて艦隊が大打撃を喰らい、艦隊は効率的ではないことが証明され、部隊の精鋭化(ティターンズ)へと進んだわけだ。
「それはわかったけど、なんでこれを作ったんだ?戦力の増強なんてこんな艦を作るよりMSを作る方が重要だろ」
「そのとおりだ。しかし、MSを、キュベレイ・ストラティオティスの初代とIIを作るには私の手が必要な部分が多い。そこでこの空母だ」
「MSの生産効率と空母のどこに関係性が……戦艦ならまだわかるけど」
「この空母はMD専用空母、しかも私が使うMDではなく、この空母からプルシリーズがMDを操縦することを前提としている。そして現在開発が進めているMDは現在配備されているような既存のMSを改修して使っているようなものではなく、プルシリーズのみで生産可能なMDを目指している」
MDの操縦は私なら超遠距離からでも行えるが、プルシリーズだと戦闘宙域外からも操縦はできるがそれから大きく外れると操縦ができないので空母で前線までプルシリーズを運ぶ必要があるため、というのもある。
「なるほど、プル達が生産することができれば数を揃えるのも難しくないか。幸い資源には余裕があるようだし」
その資源の余裕は連邦からの優遇で生まれているというのだからなんとも因果なものだな。
ちなみに女性型MDは8割が私の手製でなければならないため少数生産に留めている。
「ところでこの空母、結局搭載機数はどれぐらいになるんだ」
「400機を予定している」
「400?!また随分と多いな」
「その変わり機動力も防御力も優れているが武装が主砲2門のみに絞っているがな」
「それって大丈夫なのか?」
心配はよく分かる。
ただ、プルシリーズが大勢乗っている(プルシリーズはMDの操作は1機しかできないのでそれ相応の人数が乗る必要がある)空母の察知能力を掻い潜るのは難しいのだからMDに対処は可能だろう。
「この空母を単体で任務に出すことはしない。基本は母艦タイプを2隻、最低でも1隻は同行させる予定だ」
「でも想定しているのは今度の戦いだろ?5000機も相手するんだから防衛ラインも突破される可能性が……」
「大丈夫だ。もう1隻建艦している」
「合わせて800か、それだけいれば早々負けることもないか」
5000機と言っても編成が全軍を捨て身で突撃してくるようなことはありえない。それこそ艦隊の防衛に戦力を割く必要がある。むしろ割かないならパノプリアによる奇襲やMDを特攻させることで効率よく撃破することが可能になるだろう。
もっとも忘れてはいけないが、MDはMSよりも反応速度が鈍く、距離が離れすぎているためニュータイプの感応も大幅に低下するためプルシリーズの本来のパフォーマンスが引き出せないのであまり過剰な期待は禁物だ。