第三百三十七話
「さすがに400機もMSが並ぶと威圧感が凄いな」
「同感ね。アレと戦う相手には同情するわ」
カミーユとフォウは目の前に並ぶMS……いや、新型の無人を前提として設計されたMDが並ぶ光景に自分達の味方であることに力強く、と同時にまた戦争に身を置くことになるという重圧を今更ながらに感じる2人だった。
現実を言えば400機に圧倒されていたら想定される5000機を前にした時の圧力はどうなるのか。
「それにしても今回のMSは華やかで強そうね」
「天使みたいでキレイ」
ファとロザミアが言うように華やかでまるで天使の翼と兜や鎧を模したボディを持つMDが存在いていた。
これはプルシリーズがヴァルキリーが主人公のゲームが流行っていて、それを模した……と言っても複雑にすれば生産効率が落ちるのでアレンによって簡略化されたが、その美しさはそのまま残したデザインとなっている。
ちなみにネタ装備として槍の形をしたファンネルも用意されている。もちろん3本。
「これを全部格納するっていう空母も規格外よね」
「プル達も700人も乗るって話だし、騒がしい艦になりそうね」
「えー、プルちゃん達大丈夫なのぉ?」
「大丈夫だ。この空母は前線に出ない予定だからな」
「そうなの、よかったぁ」
カミーユ達は喋りながらその話題になった空母に乗り込む。
「やっぱり搭乗員が多いから通路もお風呂も大きいわね」
「……食堂がないのはどうなのかしら。冷凍食品ばかりだと飽きるでしょうに」
「遊ぶ場所はないの?」
「さすがに遊び場はないな。長期任務に向いた艦じゃないって話だから食堂も簡略化したってアレンが言ってたな」
「えー、残念」
「それならいいんだけど……」
更に移動し——
「う……嫌な感じがする」
「さすがロザミィね。本能的に感じているなんて……かくいう私もちょっとここは嫌ね」
「なんか凄いわね」
「そうか、2人は……」
オールドタイプのファやニュータイプであるカミーユにはわからず、ロザミアとフォウがわかる嫌な雰囲気を発するこの場所は——MDコントロールルーム。
ニュータイプというカテゴリーではあるもののカミーユはナチュラルなのに比べロザミアとフォウはアーティフィシャル、つまり人工的に作り出されたニュータイプである強化人間だ。
そしてMDコントロールルームが発する空気はMSの兵器色よりもアレンの研究者としての色が強く、2人にとって忌まわしいニュータイプ研究所の気配に感じてしまったのだ。
MDコントロールルームには培養カプセルのようなものが400基も並べられている。
アレンがMDを操作する場合はチェアで済んでいるが、それはアレンだからこそでプルシリーズが同じようにすると操作そのものは可能だが、その変わりに数分で頭痛や吐き気などの副作用、MDが撃墜されるだけで精神が死ぬ可能性がある。
それを防ぐためのこのカプセルである。
ただし、このカプセルは特殊な薬品で満たされるので終わると入浴しないとベトベトする、衣服などを着用すると効果が減少することもあり全裸での使用になるなどの理由でプルシリーズからは不評だったりする。
「大丈夫か、フォウ、ロザミィ」
「ええ、大丈夫」
「大丈夫、だよ」
「何か飲み物取ってくるわね」
1人だけオールドタイプのファは疎外感を受けることが多い。
そのことで思い悩むことは多々ある。しかし、それでも献身的な行動を続ける気配り上手なファである。
実はその影にはアレンの存在があった。
常識が欠けまくっているにも関わらず心理学を修めていること、そもそものニュータイプの感応によりファが孤立してしまう可能性は考慮していた。
そこで食堂の運営をやらせてミソロギア内での立場を作り、ついでにプルシリーズの面倒もみさせることで母性の成長を促すことで精神の強化を図り、それは見事に成功してファはできるお母さん的なポジションについていた。本人が望んでいるかどうかは別だが。
逆にフォウはニュータイプであることとロザミアが妹ポジションから抜けることができず、カミーユとの心の距離がもっとも近いこともあってアレンはフォローしていないどころか少し冷遇気味である。
フォウはミソロギア内では立場は微妙だ。
カミーユやファほどの仕事をしているわけではない上に、もしMSのパイロットをするとなるとほぼプルシリーズと役割が被り、カミーユほどの戦闘経験があるわけでもないのでそれほど重宝されるわけでもないので立場強化は難しく、心に負担を強いることになる。(その心の負担がニュータイプ強化に繋がるからアレン的には一石二鳥)
「……なに、このメニュー」
近くにあった自販機に来たファだったが、そこに並ぶ内容を見ると買うのを戸惑う……どころか商品自体を胡乱げに見る。
その様子に近くにいたプルシリーズが声を掛ける。
「あ、それはアレンピンイン特製ジュース自販機だよ」
「そうみたいね……それはいいんだけど……なんで半分が劇物注意なんて書かれてるのよ」
「それはジュースをよく振って飲まないと、成分が偏った状態で摂取してしまって最悪は内蔵がやられてしまうことを意味してるんだよ」
そんなものを自販機で売らないで!と叫びそうになるのをなんとか押さえたファは大きなため息をつく。
だいぶ慣れてきたとはいえ、ちょくちょく起こすアレンの非常識には未だに慣れないファであった。
とりあえず、普通のジュースを買い、カミーユ達と合流する。
「はい。飲める?」
「ありがとう」
「ありがとう。んー、おいしー」
「ファ、悪いな」
「いいのよ。私にはこれぐらいしかできないし」
ちなみに、これはカミーユ達のデート回である。
カミーユ達はアレンの開発やミソロギア内に新しくできた施設などはデートとして見学に行くことが定番となっている。
なにせデートをする場所は限られているのだからこういうイベントは逃せないのだ。