第三百三十八話
新型MD、名前はレナスとした……の設計は簡単だった。
量を補うための兵器であり、不特定多数の中位ナンバー、もしくは下級ナンバーが使用することからも、スペックは2の次、生産性と汎用性を重視した。
おかげで私を抜きにしてプルシリーズをフル動員(訓練や任務を止めて全員を生産に傾ける)と日産(メーカーにあらず)200機を実現した。ただし、それほど偏らせることはなく、通常生産は日産30機ほどだろう。
そして肝心のスペックだが、凡人にもわかりやすくざっくり説明すると18mサイズのヴァルキリーなジ・Oと言えば変わるだろうか。
既に時代遅れとなっているジ・Oではあるが、このサイズでジ・Oと同スペックなら最新特殊機体(νガンダムなど)にこそ劣るが、量産機や通常のエース機すらも上回っていると自負している。
もっとも小型化のために防御性能、Iフィールドが搭載されていないのはもちろんのこと、装甲自体も通常のバルカン程度ならともかく、MS戦を前提としたマシンキャノン(わかりやすく言うと頭部がバルカン、胸部がマシンキャノン)は耐えられない。ビームコーティングは一応施しているが、現行機の主流であるビームライフルを2発程度しか防げないものだ。
MDなんだから耐久性は問題にならない。むしろ自爆も視野に入れていると資源の無駄ということになるからだ。
ただ、残念なのは——
「ゲーム通りに武器も再現、もしくは容姿に合わせた武器にしたかったが……さすがに面倒だ」
せっかく天使のような容姿を持つのに武器はキュベレイ・ストラティオティスIIの武装と併用される。つまり天使がライフルを持つという違和感……いや、違うな。天使と銃の組み合わせ自体は問題じゃない。ライフルそのもののデザインが似合わない。実際プルシリーズからは不評だ。
しかし、そのためだけにコストを掛けるというのは戦いが迫っている状態では悪手以外何者でもないのでとりあえずは黙殺。
ちなみにだがレナスには内蔵武器は何もなく、マニピュレーターで武装しない限りは戦闘能力は徒手空拳のみだ。触手は容姿に似合わないということもあるが、プルシリーズではコントロールができず、強化人間人格OSでは動きがあまりに機械的過ぎるため拙い牽制程度にしか使えないので不採用とした。
やはりパイロットの安全を考慮しない設計というのは簡単でいいな。
ただし、まだレナスには弱点がある。
それは継戦能力。
ジ・Oが大型な理由は色々あるが、主要因としてパプティマス・シロッコが満足する機動性、運動性を得るための姿勢制御用のスラスターの多さとその消費を支えるためのプロペラントタンクにある。
ということは小型化したレナスがジ・Oと同じスペックを実現しているのだからどうなるかは想像するのに難しくないだろう。
一応装甲を削り、機体内のほぼプロペラントタンクにすることで標準のMSよりも20%ほど戦闘時間が短くなる程度で済むはずだ。
そしてついでに言えば装甲が凹む程度なら問題ないが、貫通した場合爆発してしまう可能性が高い……自分で設計しておいてなんだが、見た目と相まってなんとも儚い兵器だ。
「この光景を見て、儚いとはとても言えんのだが」
モニターに映し出されているのはキュベレイ・ストラティオティスIIが1機とレナスが27機が激戦を繰り広げているものだった。
これは実機による模擬戦である。
コンセプトはエゥーゴ、ティターンズ、ネオ・ジオンの総戦力とミソロギアの有人機の戦力比での戦いである。この模擬戦が終われば、3機編成(相手も3倍)、無人機込みの戦力比などで模擬戦を行う予定だ。
「まぁ開始して2分も経たない内に既にレナスは6機も撃墜されているのだが」
「それでもこのレナスという機体は素晴らしい——」
ジャミトフの賛辞は止まらない……が、オチはわかっている。
「——これならプル達も安全だ」
さすがお爺ちゃん。ブレないな。
とはいえ、これが現実であったとした場合、6機落とされてプルシリーズの損害が0と6とでは随分と違うのも確かだ。いくら数を増やせるとは言っても人間の教育には物資と時間が必要だからな。
「しかし、なんというか……この光景、まるで天使と悪魔の戦いのようだな」
そう言われて改めてモニターに視線を向けると……確かに……キュベレイ・ストラティオティスIIが悪魔っぽいのではなく、レナスがあまりにも天使に酷似しているからだろう。
「……しかし、このままだと危ういか?」
「さすが本職軍人、気づくか」
この模擬戦、戦い自体はキュベレイ・ストラティオティスIIの方が有利に進めているように見える。実際観戦しているプルシリーズは気づいていないようでキュベレイ・ストラティオティスIIが有利だと見ているようだ。
問題はファンネルとエネルギーと推進剤にある。
相手がプルシリーズ以外なら問題にならないが、MSとMD、上位と中位という違いがあるがお互いがプルシリーズである以上、ファンネルのオールレンジ攻撃はあまり意味をなさない。
そしてファンネルの総数よりレナスの数が上回っているということもあってファンネルは次々と落とされている。
そうなると母機に負担が掛かるのは明白で、今回のキュベレイ・ストラティオティスIIは1番攻防速が安定しているバランス型であるからしばらくは持つ……が——
「レナスの撃墜とエネルギー、推進剤の消費量を考えると先に果てるのは間違いなくキュベレイ・ストラティオティスIIか」
もちろんこのままいけば、という話だが。
結果から言うと、レナス33機を撃破してキュベレイ・ストラティオティスIIが勝利した。
これは途中で自身の敗北を予感してしまった上位ナンバーの奮戦、そしてそのプレッシャーにレナスを操作していた中位ナンバーに直撃して疲弊してしまい、途中から一方的な戦いとなってしまった。
「やはりこういうところで経験の差が出てくるか」
経験というのはその実力そのものはもちろんだが、覚悟の差、心構えの差に大きく関わる。
ニュータイプはその感応能力ゆえにオールドタイプよりも打たれ弱い。それはプルシリーズも例外ではない。だが、経験を積み重ねることでそれを補うことはできる。
ニュータイプ同士の戦いはある意味、力や技量の戦いというよりも心の戦いであるといえる。そう考えればレナス組が負けたのも当然の結末とも言えるか。
つまり、ニュータイプ戦において私は無類の強さを誇るわけだが……最近どうも私自身がニュータイプのカテゴリーにいるのかどうか疑問に思ってきているが、大丈夫だと信じよう。
「……ふむ、実戦経験か……どうにかならないものか」