第三百三十九話
ここはミソロギア交易所の飲み屋……いや、酒場。
アレン肝いり(趣味)で作られた古き良きRPGを再現した酒場。
特にマーケティングなどしたわけではないがふんだんに木材が使われ(見た目と触感だけで実際は合成樹脂)、安くて苦い酒、安くて不味い飯(日本円換算で88円で大ジョッキ、特盛牛丼が食べれる感覚)が意外とウケて人気のスポットとなっている。
「ハァー、やってらんねー」
「おう、どうしたよ。景気悪そうな顔して、あんたは確かサイド7に荷運びの予定じゃなかったか?」
「それがさー。例のやつが出たんだ」
「げっ、不可解な海賊達か、そりゃ災難だな」
「ああ、エゥーゴの巡回部隊とドンパチよ。ほんと迷惑な奴らだぜ」
「それでどっちが勝ったんだ?」
「いつもどおり、勝敗はエゥーゴの勝ちだが、被害甚大。海賊達は自爆」
「ほんっとにわかんねーよな。わざわざ軍ばっかり狙うなんて何考えてんだか」
「しかも負けそうになったら捕虜になるでもなく、逃げるでもなく自爆……宇宙にゴミを撒き散らしやがって!」
「そもそもなんで海賊如きがMSを独自開発してんだ?どう見たって連邦系でもジオン系でもねーし……そーいやココもMS作ってたっけ?」
「そりゃ元々ジオン系のMSを作ってたって話だから当然だろ。しっかしお前さん、この話の流れでその話をここでするのはなかなか勇気あるねぇ」
「この程度でここは動かんから大丈夫だろ。それにここが怪しいなんて話は今更だよ」
「まぁそうだが俺なんかは臆病者だからよ。あの違反者を取り締まる姿を見てたらとても軽口を叩く気にゃならんよ」
「へー、噂には聞いてたがそんなに凄いのか?」
「なるほど、見たことがないのか。そういやお前さんはまだここに来てそんなに経ってないか」
「ここを使い始めて2ヶ月くらいかな」
「それなら知らなくても仕方ないか、最近は馬鹿なことをする奴らも随分と減ったからな」
「……そんなにやばいのか?」
「気になるならそこの端末から魅せ〆アーカイブで過去の取り押さえ映像と刑執行映像が観えるぞ。ぜひ観ておけ、少なくともここで悪事をしようなんて思わなくなる」
「わ、わかった」
「ああ、1つ注意しておくがグロレベルMAXはやめとけよ。しばらく肉食べれなくなるからな」
「……」
(口は災いの元、ほどほどにしておくんだな)
彼は元ティターンズでジャミトフを慕ってミソロギア交易所にやってきた俗に言うジャミトフ派の一員である。
仕事の内容は情報の収集、拡散、もみ消し、犯罪抑止などだ。
(しかし、どうするかな。これから)
ジャミトフ派の彼は今、人生の岐路に立たされていた。
ミソロギアが地球圏離脱まで後5ヶ月に迫っている。
つまり、付いていくか付いていかないか。
ジャミトフ派は大きく分けて2つの派閥が存在していた。
簡単に言うとジャミトフ個人を慕っている派閥とジャミトフの返り咲きを期待している派閥だ。
返り咲きを期待している派閥にとって地球圏離脱は希望に添えないため、ミソロギアから去っていた。
そして残ったジャミトフ派には一緒に付いてくることをアレンは許可した。
外部の人間はトラブルの原因でもあるが、思考の多様化でもある。
今までは独立していたように見えたミソロギアだったが、なんだかんだと不死鳥の会や交易所、ジャミトフと彼のような配下、そして究極的にはアレン自身の感応などで外部からの刺激があった。
しかし、これからは独立ではなく、孤立する以上外部からの刺激は皆無となる。さすがのアレンも地球連邦が軍を派遣するのに躊躇う距離となると地球圏に帰還する前のアクシズぐらいは離れる必要がある。通常のグワジン級で1年掛かった距離、ブースターを付けて短くできるとはいえ、それを大量に用意……ミソロギアを討伐するならそれ相応の戦力分用意するとなると放置する方に傾くのは間違いない。
説明が長くなったがそんな辺鄙にいくのだからジャミトフを慕っている派閥と言えど抵抗があって当然のことだ。
(ここを抜けるのは自由って聞かされてはいるが……本当に許してくれるのか?)
思い浮かぶのは治安維持に動くプルシリーズでも桁外れなMSやその軍事力でもましてやジャミトフのことでもなく、3度ほど面会したことがあるアレンの存在だった。
彼はニュータイプではない。だが、その存在感は情報に携わる部署にいた経験と勘が警鐘を鳴り響かせていた。
抜けても始末されるだけではないのか、そんな疑問が過るのは裏の社会に近い部署にいたからだろう。
しかし、アレンにそんなつもりは欠片もなかった。
そもそも隠すほどの情報は彼らは持っていないし、彼らは簡単に情報を漏らすようなことはないとアレンは知っていた。
こういう面でもアレンのニュータイプ能力は便利である。もちろん完全ではないが。
だが、彼はそんなことを知っているはずもなく——
(消されるだけならまだいいが人体実験とかされそうだよな。あれは間違いなく敵には容赦しない部類だ。しかし早い段階で抜けた連中との連絡は今もできているから大丈夫か?それにあれは契約を破ったことはないらしいしな)
ちなみに彼はアレンを『あれ』呼ばわりしているのは人間に見えるが多分違ったナニカだと思っているからだ。
もちろんこのこともアレンは知っているのだが、自分がどう思われようと害がなければ気にしないので助かっているのだが、当然彼はそんなことを知るはずもない。
ついでにいうと彼は3度もアレンと面会できているのは彼の能力がジャミトフにもアレンにも認められていることにほかならない。当然彼はそんなことを以下略。