第三百四十一話
プルシリーズの意識が変わった。
海賊行為によって得た経験は大きな意識改革をもたらすことに成功した。
MDを遠隔操作しているプルシリーズにとって命に関わるようなことはないが、明確な殺意は弛んだ意識の引き締めに繋がる。
そして現在海賊行為を行っているのは中位ナンバーを差し置いて下位ナンバーという変則的な起用のおかげで、中位ナンバーが下位ナンバーよりも実戦経験に劣るというアンバランスさが生まれ、競争心を煽った結果、いい成長を促している。
後1ヶ月も経てば海賊メンバーは中位ナンバーに入れ替える予定だがな。次の戦いでのMDは中位ナンバーが主体とする予定だ。
下位ナンバーを先に実戦投入したのはあくまで中位ナンバーのやる気と下位ナンバーの引き締めを狙っただけだ。
「この1ヶ月でMD150機を消費して相手の消耗はMS80機とマゼラン級1隻、サラミス級3隻、コロンブス級1隻を撃沈、アイリッシュ級2隻、ラー・カイラム級1隻を中破か。戦果としては上々だな」
戦時でもない現在ではいくら連邦が大国とは言っても軍事予算には限度がある。
そしてそれに1番ダメージを与えることができるのはMSの消耗ではなく、母艦の消耗だ。
以前から何度も言っているが宇宙では母艦がなければ機動戦力は機能しない。だからこそ母艦の整備は最優先される。
しかし、そもそも艦というのは戦時でもなければ短く見積もっても10年は運用されるように計画されている。
今もマゼランやサラミスと言った旧式が就役されているのはそのためだ。
その艦が4隻(コロンブスは輸送艦なのでこの話には漏れる)も沈み、新鋭艦2隻とお初にお目にかかる最新鋭艦1隻が中破というのは連邦でもそれなりの痛手だ。
なにせニューオーダーとの戦いで多く消耗したMS、そして更に母艦の消耗とくれば連邦でもすぐ補うことは難しい——
「ああ、そういえば今は連邦が生産しているんじゃなかったな」
私が敵対していたのは連邦、そしてティターンズという生産能力は自組織で保有していた存在だった。しかし現在は——
「ティターンズはともかく、今となっては連邦もエゥーゴもアナハイムに依存していたんだったな」
一応味方(正確には味方のネオ・ジオンの同盟相手)だったエゥーゴはシャアやアムロといった個人を警戒することはあってもエゥーゴそのものを警戒することは少なかったのでその源を忘れていた。
「となるとアナハイムにも仕掛けるか、エゥーゴやティターンズだけでは不公平だからな。私は差別をしない男だ」
……そういえば月にはアナハイムの私兵と化した駐屯部隊が存在したな。あれの規模ってどの程度のものだったかな。
確かジャミトフの配下から報告があったな。
「……これか」
駐屯部隊ができてから随分と部隊の内容と規模が変わっているが……現在は……ラー・カイラム級が3隻にアイリッシュ級が4隻、サラミス級5隻、MSは230機?しかも連邦でもまだ配備されきってないジェガンが大部分なんて随分贅沢だな。しかも未確認のガンダムタイプが数機配備されている?これはむしろよくこの情報を取ってきたな。おそらくアナハイムの中でもトップクラスの軍機だろう。
それにしてもこの戦力……よほどティターンズがトラウマになっているみたいだな。軍縮が進む昨今にこの部隊を維持して……いや、むしろ増強しているのだから間違いない。
しかし、私からすると目障りだ。(アナハイムもミソロギアのことを目障りだと思っている)
「私達の討伐に来る可能性があるな。パイロットの練度はどの程度か知らないが数と兵器の質だけを見ると面倒だな」
というわけで海賊部隊の次のターゲットは月に決定だ。
ただし、もう少しで地球圏から離脱するとはいえ、ミソロギア警備部の実績を損なうのはつまらないので警備エリアではない部分から侵入させるとしよう。
そうなれば月から高度500km以内は救助要請があっても私達は立ち入り禁止されているからなー。シカタナイシカタナイ。