第三百四十二話
それは彼らにとって突然のことだった。
「未確認MSが接近!数は3!」
連邦内の抗争が終わってからというもの、平和を謳歌していた月の住人達。
しかし、突如としてレーダーに掛かったそれは間違いなくMSで——
「MSだと!どこの所属だ!」
「所属不明!機種判別——不可解な海賊達?!」
ジオンのものとも連邦のものともわからない不気味なフォルムが特徴の不吉を撒き散らす海賊達だ。
「MS隊緊急出撃させろ!3機だからと舐めて掛かるなよ!出せるだけ出せ!」
「了解!」
不可解な海賊達の情報は月駐屯部隊にも浸透していた。
何が目的なのか、どこの組織なのか、どこからやってくるのかすらもわかっていない。
機体自体は大したことがないにも関わらず、どのパイロットも優れた技量を持ち、最終的に撃破するか自爆するという厄介な存在。
巷では宇宙人の侵略だ、などという戯言すらも噂されていた。
スクランブルを掛け、飛び出したのはジェガン12機。
スクランブルであることもあって各機がそれぞれベースジャバーに搭乗する(輸送目的の場合はベースジャバー1台に対して上下に1機ずつ乗る)という速度重視で駆ける。
それに比べるとネモとそう変わらないスペックである不可解な海賊達は動きは既に旧式MSのものである。
しかし——
「迎撃ミサイルも撃て、足止めしろ!地表に近づけるな!」
不可解な海賊達にはミサイルはあまり効果がない。それは今まで交戦してきた情報でもそうある。
もちろん指揮官もわかっているが、地表に近づかれ、万が一都市部に近寄られるようなことがあると戦闘での被害云々以前に自爆されるだけで大変な事態になる。
それを未然に防ぐべく迎撃ミサイルである。
100を超えるミサイルが放たれ——
「本来ならこれで終わるはずなのだが——」
「足は止めることに成功!しかし目標未だに健在!ミサイルは全て迎撃されました?!」
「くっ、化物め!」
その言葉は仕方ないことだ。
そもそもMSがなぜ戦闘機や戦艦を淘汰したのか。
それはミノフスキー粒子によってレーダーや通信、誘導兵器が無効化されたことである種の原点回帰が行われたことにある。
つまり、MSというのはミノフスキー粒子下で戦ってこそ本領を発揮するものなのだ。
大事なことなのでもう1度言うが、ミノフスキー粒子下だからこそ本領を発揮するものなのだ。
「なぜミノフスキー粒子も散布せずあの数のミサイルを対応できるのだ!」
不可解な海賊達はMS3機、もしくは6機でしか現れない。
ミノフスキー粒子の散布を戦闘濃度で行う場合、艦か、少なくともそれ相応の発生装置が必要になるのだが、不可解な海賊達は本当にMSでしか現れない以上、ミノフスキー粒子はその機体の核融合炉を除けば欠片も発生しない。
ゆえに誘導兵器もレーダーも通信も自由に使い放題、ならば一年戦争以前のノウハウによりMSなんて非効率な兵器6機程度に遅れを取るはずがない。
通常の相手ならば、だが。
「敵を休ませるな!MS隊が辿り着くまで足止めだ!」
間断なく放たれるミサイル。
それにはさすがの不可解な海賊達でも対応に追われて降下どころの話ではない。
しかし、撃墜には至らない。
「くそ、あれがもしただのMSだとしたらこの大赤字だぞ」
いくら予算が豊富である地球連邦でもそれには上限は当然ある。
MSとミサイルの値段比率は大体1:50で通常であればミサイルが圧倒的に安上がりなのだ。誘導ミサイルが50発もあればおおよそのMSは撃破できる……はずなのだが、300発以上も撃ち込んでそれでなお健在であるというのは常軌を逸していた。
「MS隊、不可解な海賊達と交戦に距離に入りました!」
誘導兵器にしろ、メガ粒子砲による砲撃にしろ、遠距離からの攻撃はほぼ通じない。
逃げ場がなくなるほどの飽和攻撃を行うか、不可解な海賊達の数を減らすことで処理能力を上回るようにするしか現時点では有効な成功例はない。
たまに撃破することが可能ではあったが、50機に1機程度の割合であり、有効な戦術と言えるものではない。
現在、もっとも有効的な手段は、結局の所MSによる戦闘という面白みもない戦術が1番有効だというものだった。
「援軍はまだか!」
「たった今2小隊発進しました!」
普通に考えれば12機対3機など相手にもならないはずで、援軍なんて必要がない……と思うのは正常な思考だ。
そして迎撃に向かったパイロット達も同じ思いであった。
ミサイルは所詮ミサイル。
ミノフスキー粒子下の戦場しか想定していないMSのパイロット達は誘導ミサイルと無誘導のミサイルの違いを知らずにいた。
これは新兵が多い月駐留部隊では仕方ないこととも言えた。
彼らが軍に入ったのは既にミノフスキー粒子散布下での戦いが当然であり、誘導ミサイルを相手に訓練などしたこともないのだ。
そもそもミノフスキー粒子が散布されていない戦場では自然や大気などという敵がいる地球でならともかく、なにもない宇宙では旧式とされるマゼランやサラミスにすら勝てないのだから。