第三百四十三話
培養槽を思わせるそのカプセル。
8つのカプセルの中には裸で浮かぶ同じような容姿を持つ4人の女子。
これが兵器の操作光景だと思う者はどれだけいるだろうか。
8つの内2つのカプセルだけ分けられ、そのカプセルに入っている女子の表情が歪む。
するとカプセルの外で機器の前に座る、これまたカプセルと同じ容姿をした女子が慌てて何かを確認する。
「ミサイル迎撃への処理でストレス増加、しかし許容範囲内です」
そう言うと周りから了解の返事が上がる。
そしてその返事を返すのも同じ容姿の女子……平たく言うとプルシリーズである。
ここは母艦内で、8基のカプセルは6基がMD操作、つまりパイロット用で、残りの2基が情報管理、統率、つまり小隊(MD3機で1小隊)指揮官用である。
MDの強化人間人格OSは戦闘補助に重きを置いている。射撃の補助や動作の補助などには優れているが情報処理、そして伝達という機能は用意されていない。
それは機械から得られる情報をプルシリーズに伝達する手段がないわけではない。ただ、その情報量をやり取りすればプルシリーズへの負担が大きくなるのだ。
ファンネルの原型であるビットは超遠距離で操作するためにそのような方式を取っていたが、ララァの副作用はそれが原因である。
その解決法としてアレンが取ったのは指揮官による情報処理とパイロットの管理だ。
ちなみにアレンのような規格外なら操縦から情報処理、部隊の統率、ついでに研究までしてしまうが、プルシリーズがそんなことできるわけもない。
「敵MS部隊との交戦を確認」
「敵MS全機ノーマルジェガン、ドダイであることが判明」
「敵ミサイル支援がなくなりました」
「敵レベル中の下7、中の中3、中の上1、上の下1と推定」
「中の上、上の下を重点的に情報収集」
「了解」
「連携パターンの解析は終わり次第プル1210(指揮官カプセルに入っている個体)へ伝えるように」
「アイアイサー」
「予備MDはどうするー?上の下なら出しちゃってもいい気がするけどー?」
「今からだと第1小隊が全滅する方が早いでしょう。次回に回します」
「ラジャー」
「提案、月面を背にするように戦闘」
「なるほど、コロニーや母艦を盾にするのと同じ要領ですね。採用、すぐにプル1210へ伝えてください」
「くそ、やつらに突破させちまった!」
「隊長!どうしますか?!」
「どうするもこうするもねぇ!直に援軍が来る!そいつらと挟み撃ち——ちぃ、突破が目的じゃなくてこっちの弱みを握っただけってか?!」
不可解な海賊達は月を背負うようにして迎撃部隊に正面から挑みに掛かる。
しかし、迎撃部隊の隊長は嫌な予感がしていた。
(奴ら、俺達の弾幕を物ともせず突破していきやがったぞ。俺ならできなくは……いや、4倍の敵にそんなことできんぞ)
そんな相手が3機もいる。
(こんな奴らが自爆覚悟で突っ込んでくる?悪夢だなこれは。)
負けることはないが、無傷では済ませられるような相手ではないだろうと腹をくくる。
「ちぃ、射線が——」
月駐留部隊が月に損害を与えるなんてことになればどうなるか、想像するだけで恐ろしい。ただ降格なんて優しいものではない。自身のクビでもまだ優しい。最悪親戚まで路頭に迷う可能性がある。それだけ今のルナリアンは力を持っている。
だからだろう——
「隊ちょ——」
「ジョージッ?!」
戦場での迷いは命を縮めることになる。
迷いが動きを鈍くし、パイロットが迷えばプルシリーズはそれを感じ、容赦なく攻め立てる。
不可解な海賊達は3機がバラバラに動いていた。連携なんてしていないように。
しかし、動きが鈍い敵を見つけると示し合わせたかのように1機に対してビームを浴びせ、ターゲットとされたジェガンはほとんどを残すこともなく蒸発する。
「馬鹿者!動け!止ま——」
味方が一瞬でその生命を火花に変わったことに思考が止まってしまい、動きを止めてしまう者がいた。それも仕方ないことだ。月駐屯部隊は新設部隊で成績こそいいが新米ばかりだ。
そしてその新米から死んでいくのは当然でもある。
彼が全てを言い終える前に新たに2個の火球が生まれた。
「ヨシュア!ドネット!……貴様ら!!許さん!カイン、自由にしろ。俺が合わせる。残ったやつは牽制してろ!」
隊長と呼ばれる彼はプルシリーズに実力を中の上と判定された男でカインは上の下と言われた男であった。
この2人は元はティターンズに所属していたエリートである。ただシロッコは信用できず、だからといって敵であったエゥーゴにも所属できず、今更格下と侮っていた普通の連邦軍にも所属できずにいたところを月駐留部隊……平たく言えばアナハイムに拾われたのであった。
つまり能力があり、戦争の経験者である。
そんな2人は数の利を捨て、中途半端な腕前では足手まといになるということで他は支援させ、あくまで2人で戦うことに決めた。
その決断は正しいものだった。
「むぅ、やっぱり中の上以上だと少数でも倒しきれない」
「動きが良くてパターンも多いよねー」
「やられるわけじゃないけどやれない」
「無視して他をやっちゃう……なんてできるわけないし」
「援軍ももう少しで着くよ?そうなると数で押されちゃうし少し早いけどポイしちゃう?」
「……もう少し解析しましょう。このパイロットの癖がわかったかもしれません」
「お、本当?ならもうちょっと頑張ろうか」
「なら皆にそう伝えるねー」
お互いが戦闘しているというのに温度差が激しい両者である。