第三百四十四話
「敵増援、交戦可能領域まで後30秒!」
「さすがにこれから6機も相手するのは辛いです」
「エネルギーは相手のライフルぶんどるからいいけど、推進剤はどうにもならないよー」
不可解な海賊達は母艦から遠く離れた場所へと出向く関係上、どうしても戦闘時間はあまり長くはできない。
特に月という低いとは言っても重力がある関係上、推進剤を多く消費してしまう。
そしてもちろん補給をするという選択肢もなく、使い捨てるの一択。
そうなると使い捨てるタイミングが重要になってくる。
すぐに自爆するのか、それともギリギリまでデータ収集して自爆するのか。
ちなみにこの場合、撃墜されるというのは失点である。
なぜなら撃墜されると機体破損により自爆ができなくなる可能性があり、もし万が一MDを鹵獲されてしまえば無人兵器であることが露見してしまうからだ。
もしこれが露見してしまえば現在唯一無人兵器を公に使っているミソロギアが現状証拠だけで犯人だと断定されるだろう……まぁ濡れ衣でもなんでもなく事実犯人なのだから仕方ないが。
「推進剤の残量は」
「今の機動戦で5分かな。でも増援来るしもっと早くなるよ?」
「ならもっと降下して都市を盾にして相手の動くを制限する。それなら戦闘時間が伸びる」
「また迎撃ミサイルが撃たれるかも」
「都市に近づいている以上撃てないとは思うけど……その時は潔く自爆」
「あいさー」
「了解」
戦闘指揮を任されているプルシリーズが決断を下すと他のプルシリーズは了解の意を伝えて各々動き出す。
そして小隊を率いる小隊長に、小隊長からMDを操作している小隊員へと伝えられるMDは交戦を放棄するように月面へと下降を開始する
その行動を見て焦ったのは交戦していた月駐留迎撃部隊である。
「ちぃ、なんなんだこいつら!さっきまでこっちとやる気満々だっただろうが!なんで今になって都市を狙う!」
「……増援が来たから、か?」
「なるほどな!くそ、こんなことなら増援なんていらない……と言えるような状態でもないか」
自分の機体は既にボロボロで判定でいうとギリギリ中破判定、自分の機体ほどではないにしてもエースであるカインの機体も中破寄りの小破。不可解な海賊達も無傷というわけではないが言葉通り小破程度である。
(それに奴らの動き……まるでこちらを試すような動きに見えた。実際段々と俺達の動きを読まれていた)
実際、射線から逃れる機動は回数を重ねれば重ねるほど余裕がなくなり、射撃も同じく回数を重ねるほど照準までに時間が掛かるようになった。
それに比べると不可解な海賊達は強化人間人格OSによって戦闘補助がされるせいもあって癖が少なく気分屋なプルシリーズが操縦するという複合によってパターンが分かりづらいものとなっているし、更には感情という通常は手に入らない情報まで加味されてしまうのだから情報分析でミソロギア側を上回ることは難しいのだ。
「くそ、速度はこっちが上だが——」
都市に向かっている以上、射撃することはできない。
となると都市を守るためには回り込むしかないがそれも難しい。
まず回り込むほどの速度を出せば相対するための旋回時に掛かるGは重くなる。そのGは訓練で行うものを超える。
そしてそのGを耐え、この不可解な海賊達相手に満足に戦えるのか。
(最悪なのは侵入速度も落とせず無駄死だな)
軍人、しかもMSのパイロットである以上、生き抜く覚悟も死ぬ覚悟も当然している。
自身の死は価値ある死であってほしい。それが軍人にとっての共通の思いである。
そう、軍人にとっての共通なのだ——
「隊長!お先に失礼します!」
「後を頼みます!」
「馬鹿!お前達——」
2機のジェガンが不可解な海賊達を止めに入るために加速する。
機体性能があるため、そう間もおかずして追い抜いて不可解な海賊達の進行方向を遮るように立ち塞がる。
そして懸念していたとおり、立ち塞がるだけでジェガンのパイロット達は襲いかかるGに対応できずに動きが一時的に止まる。つまりジェガンそのものの動きも停止する。
無慈悲な不可解な海賊達がその隙を見逃すはずはない……はずだったが、旋回して攻撃をしようとはしなかった。
(命を掛けても守る!)
(時間ぐらいは稼いでみせる!)
「な、なにこいつら」
「怖い」
「……気持ち悪い」
ジェガンのパイロット2人の己の命を鑑みない気迫にプルシリーズが押されていたのだ。
今回操縦しているのは下位ナンバーのプルシリーズである。その強さは一般パイロットを凌駕するものだが、その精神は児童か下手をすると幼児と言っても過言ではない。
殺意や敵意などというわかりやすい害する感情であれば、ある程度本能的に身を護るために無意識に戦うという選択肢を取れるが、己の命を捨ててまで守ろうとする精神はまだ下位ナンバーに理解できないでいた。
「命令変更!最上位パイロットの抹殺に移りなさい!」
小隊長であるプル1210は下位ナンバーの混乱を察知して行動しやすい方向に命令を変更することにした。