第三百四十七話
ミソロギアという組織の由来ともなっているこのコロニーは地球圏離脱が決まった時点からずっと工事が行われている。
この工事はコロニー自体の拡張でもあり、居住区の拡張でもあり、生産工場の拡張でもあり、娯楽施設の拡張でもある。
コロニー自体の拡張については直径は変わらないが全長35kmであったものを45kmに拡張した。
居住区の拡張は予定はないが人口1万人まで収容できるように建築している。
生産工場に関してはやはり地球圏離脱をした後にMSやコロニーの整備部品の生産はもちろんのこと日用品や雑貨、そして研究用の機材なども自前で生産しなくてはならないし、思いもつかない何かを生産しなくてはならなくなるかもしれないからな。
そして1番力を入れている娯楽施設の拡張。
もちろん地球圏離脱後に供給が絶たれるのだから当然だが、特に力を入れているのが動植物だ。
動物に関しては基本的な動物を愛玩動物や動物園に、飼育が難しいものや希少な動物は遺伝子情報を保管している。
植物は種子はもちろんのことだが、成長しているものも多く取り寄せて居住区や公園、植物園などに配置してみた。
ついでに都市計画の参考に色々な文献を読んだが植物、特に街路樹や花壇などは治安の向上に繋がるという論文と検証データがあったので私もデータ取りしてみたりした。ちなみに結果は治安向上効果はあった。花壇や街路樹を配置する前と後で足音を計測してみたが明らかに配置後の方が足音が遅くなった。最初は目新しいために見ていただけかとも思ったが、2ヶ月ほど経っても同じ傾向が見られることから鎮静効果があったと考えていいだろう。
ああ、そういえば動物といえばサイやゴリラなどと相撲、チーターやインパラなどと競争などが一部で流行っているようだ。ちなみに一部というのは上位ナンバーであり、中位ナンバーや下位ナンバーは観戦している。
別に殺したりするわけではないが動物愛護団体がこれを知ったら抗議が来るだろうな。あのキチガイどもは自分は肉を食べているのに動物愛護を謳っているというわけのわからない存在だ。……そういえばなぜかコロニー落としをした際に騒いでいなかったような?……もしかしてジオン側の組織だったりするのか?
もちろん植物が充実化してきたことでガーデニングを始める個体もいる。
環境が整えられているコロニー内でのガーデニングは難易度は低い。よほど特殊な植物出ない限りは問題なく育成することができるはずだ。まぁ高温多湿や火に焼かれないと発芽しないなんていう植物はそれ相応の施設と手間があるので難しいが、そんな変わり種は今の所放出していない。
「……いつの間にか私が知ってるコロニーじゃなくなってる」
というのはここのところ少しでもサイコミュや未来予測システムを改良できないかと研究室に籠もっていることが多いスミレが外に出た時の感想である。
それだけコロニー内は変化している。
植物に溢れ、動物が闊歩している。ちなみに動物は一定以上の大きさ、具体的には小型の成猫サイズ以上でないと飼育は禁止している。
それ以下になると脱走したりすることが増え、万が一繁殖してしまえば面倒になる。小さい気配があっちこっちあるとそれを察知してしまう私にとってはストレスだ。ニュータイプ訓練としてはいいかもしれないがすぐに止めることができず、病原菌の原因になる以上あまり得策ではないのが残念だ。
と言ったら「え、まだニュータイプの訓練を続けるんですか?!」という顔をされた。いや、私は天才なのは間違いないが努力もする天才だ。訓練ぐらいたまにしているぞ。
もっともなぜか標準的なニュータイプの訓練ではイマイチ効果が薄いのがなんとも言えんが。
土地自体はかなり余っているため森や川下りなどを想定した荒い川から川遊びようの緩い川、登れば登るほど重力が軽くなるという山(コロニーは中心に近づくほど遠心力が弱まる)などを用意した。
そしてこれも最近気づいたのだが、こういう趣味趣向というものが個性を大きく育てることになるようだ。
考えてみれば今まで個人の自由はある程度私の目的に沿った方向に導いていた。それをゆるくしたことで個性が目立つようになるのは当然だろう。