第三十五話
「ところでベッキー……レベッカは大丈夫なんですか?具合的な意味でもそのファンタジーチックな耳的な意味でも」
「大丈夫に決まっているだろう。私が手術したのだから」
(((不安だ)))
何やら失礼なことを言われているが特に気にしない。
ただ、いくら手術をしたからと言って薬漬けと洗脳まで解けたわけではないのでこれからしばらくは面倒なリハビリをしないといけないだろう。
肉体的には1週間程度安静にすれば動くには問題ないはずだ。だが、この状況では身体が動くようになるというのは必ずしもよろしくない。
洗脳状態であるレベッカ・ファニング少尉は生粋のタカ派であるため脱走や抵抗をするのは容易に想像ができる。
残念ながら独房はタカ派の勢力下であり、通常の部屋に監禁しておくにはセキュリティー面に不安がある。それにイリア・パゾムほどではないが身体能力も若干強化されているため通常の軍人では万が一の時に拘束するのも大変だろう。
「相手にナタリー中尉ほどのプログラマーが居なければ話は早いんだが……」
「どういうことだ?」
感動の再会(?)を済ませたリカルドが独り言に突っ込んでくる。
いや、別にナタリー中尉ほどのプログラマーがいないなら私かナタリー中尉、もしくは2人でハッキングを仕掛ければすぐに——
「「そんな手が?!」」
……まさか思いつかなかっただけなのか?というか、この手で連邦に脱走してあわや逃げられるところだったはずなのだが……対策にそれほど自信があるのだろうか、セキュリティーなんていたちごっこでしか無いと言うのに。
アクシズの現地上層部とインゴルシュタットの上層部で開かれた緊急会議でナタリー中尉はインゴルシュタットで指揮を執る必要(シャアは最大の戦力であるため前線に出るから)があるため、私だけでハッキングすることになった。
ちなみに強く推したのはハマーンである。
どうやらタカ派は自分達が食料の大部分を保有してこちらに食料の余裕がないことに気づいたようで長期戦に切り替えたようで、このまま待つよりは良いということらしい。
私としてもタカ派が長期戦を行うならまだ隠しているだろう切り札を見ることが叶わないので早期解決は望むところだ。
早く解決して研究に専念したい。スミレ准尉……スミレは正式に私のところで働くことに決定したのでこれからが楽しみだ。
ちなみにスミレはニュータイプではなかった……エロ触手が使えなくて残念だ。
ダブルエロ触手でハマーン達を訓練する野望も潰えた……いや、レベッカ・ファニングがいたな。よし、徹底的にリハビリをするぞ。
……しかし、最近エロ触手にハマり過ぎじゃないか、私。
もしやエロ触手には洗脳効果が——
「アレン博士、時間です」
「了解した。ハッキングを始める」
さて、以前ハッキングした際に設置しておいたバックドアは生きて……いたな。
よしよし、早速システムの掌握に……む、面倒なプロテクトが施されている……って、このプロテクトを施したのはナタリー中尉だな。また面倒なことを。
まさかタカ派の妨害ではなく、味方の妨害にあうとは思いもしなかったが……ナタリー中尉本人が敵に居たならもっと面倒な事になったのは間違いないだろう。
「とりあえず敵の配置を把握……よし、次はルートの選択。確かここが管理室でこっちが司令室……優先順位は管理室だったか……途中にある監視カメラをこちらにもらって映像をすり替えて……」
意外と1人では面倒だな。
ああ、武器庫のロックもしておかないと面倒なことになるな。
以前やったように酸素濃度を下げて高山病にしてやれば簡単に決着がつきそうに思えるが前回と違って今回は逃亡者ではなくアクシズの軍人が相手、酸素が薄くなったことを察知されれば宇宙服を着用されて終了、しかもハッキングがバレてしまうので奇襲性が失われるだけになってしまうので無しだ。
「よし、これで突入準備完了。そちらは大丈夫か……ならば隔壁を開けるぞ」
ここからは時間との勝負だ……が、正直敵の配置把握に不意打ちに数的、地理(システム掌握)的に有利である以上、圧倒的な結果になるのは当然のことである。
ちなみに大体は大勢で囲んで降伏を促すと素直に降伏してきたが、もちろん抵抗してきた者もいた……が、彼らはイリア・パゾムの拳によって沈黙することとなった。
よほど手加減を失敗したのが悔しかったのか、何人もの犠牲を積み上げてることになったが最後の方には力加減を習得することができた。
それにしても両勢力合わせて死亡者が0というのは奇跡と言えるかもしれない。もっともイリア・パゾムによる正拳突きで重傷者が20名ほどいるがクーデターの鎮圧にこの程度なら優しいものだ。
ちなみにイリア・パゾムの活躍を見ていた兵士達によって鬼少女と恐れられ、それが定着して異名となった。
本人も大変喜んでいて耳にした際には拳で返礼されることになるので覚悟して呼ぶように。
私の異名である鬼才と鬼少女で鬼がお揃いだ、と言ったら物凄い顰めっ面をしていた。おそらく照れているのだろう。
そしてこのクーデターを鎮圧したのは私の手柄……ではなく、ハマーンの手柄となった。
本人は他人の手柄を自分のものにするなんて、と遠慮していたが下の者の手柄は上の者の手柄だと説得した。
何より私を使うように推したのはハマーンだからあながち間違ってはいない。
それに私は私で別に報酬をもらうので手柄など特に必要ない。
ふふふ、念願のクローン開発の許可をもらうつもりだが……許可は出るだろうか?