第三百五十話
ジーン・コリニーの手術はサクッと終わらせ、交易所にはまだ滞在しているものの既に私の手から離れ、今頃ジムでリハビリをしていることだろう。
今のジーン・コリニーは身体に慣れていない状態、分かりやすい例えで言うと利き手ではない方の手で食事をする感覚で日常生活を送っているようなものだ。
プルシリーズなら日常的に体験しているので慣れは早いが、初めての経験である以上慣れるのに時間がかかるのは仕方ないことだろう。幸い今回はオーソドックスな人間の身体であるためシローほどは時間がかからないだろう。
ついでに言えばジャミトフも同じような経験をしているのだが、少しずつ手を加えていった関係で慣れるまでに時間は掛からなかった。
ちなみにこの全換装はプルシリーズの治療よりも時間と手間が掛かっている。
なぜかわかるだろうか?
正解は、指紋や黒子、傷跡などの再現である。
指紋は言わずもがな黒子も傷跡も個人認証を行うのに使う特徴の1つだ。
他はともかく傷跡などは消しても普通は問題ないのだが、軍人であり、将官という上位に位置する上に既に長年付き合った傷跡を消すというのは下手をすると成り代わりなどの可能性も疑われるような立場なのだ。
科学の進歩というのは事態をややこしくするな。まぁ科学が悪いのではなくそれを扱う人間が未熟だからそうなるのだが。
「そろそろ派遣していた部隊もそろそろ帰ってくる頃か」
海賊行為を行っていた部隊も25日後にはで地球圏外へと旅立つということで帰還命令を出しているし治安維持用MDは契約も切れ、回収済みで戦いに備えて機体や武装の改修作業中だ。
「改修ができるのも戦力が充実したからだがな」
ミソロギアの現在の戦力は——
()内の数字は過去のデータ
キュベレイ・ストラティオティスII:50機(30機)
キュベレイ・ストラティオティス:150(120機)
キュベレイ・アルヒ:20機
MD(既存MSのMDしたものとカヴリ込):500機
レナスMD:1200機(800機)
女性型MD:10機(1機)
パノプリア:30機(10機)
と大幅に増強した。
ただし、MS、MDの数は揃っているが武装が数を揃えられていない。
実のところレナスよりも現在標準化させようとしている新型ビームライフル(ストラティオティスIIのビームライフルのこと)の方が製造技術が必要なため、レナスよりも生産が難しいのだ。
新型ビームライフルを製造できるプルシリーズは10人程度しかおらず、休まず製造しているがそれでもさすがに手が足りない。
もちろん私も手伝っているが、そればかりに時間を割く訳にはいかないので技術的に簡単な旧式のビームライフルの製造して数を補っている。
少し無計画に生産しすぎたか?しかし、予備機と思えば悪くない……いざとなれば自爆
ちなみに母艦も空母も増やしていない。
母艦も空母も運用には人員を使うため、増やさないこととした。
そもそも正面戦力の数を揃えるだけで下位ナンバーすらも導入しないといけないのだからそちらまで人員を回すことができなかった……というより現在のプルシリーズは2800人、つまり300人増やしたのだがそれでも運用がギリギリの状態だ。
「ククク、人が死ぬというのに楽しみにしているとは私自身、知らない間に狂ったものだな」
私は昔から一般人にとっては狂っているのは間違いないだろう。
しかし、今回の私の行動は日頃の私からしても判断が狂っている。
今までの私なら死者が出る以上、このような戦いは間違いなく避けていた。
それが地球圏を離れるとなって自己顕示欲に負けてしまったようだ。
心の何処かで私が作り出した最高ではないにしても傑作であるプルシリーズとMSを披露したかったのだろう。
「これが最後……もしくはしばらくはこんな機会はなくなるというのに……これがアニメやマンガなら間違いなく負けフラグだな」
負けるはずがない……などと言えればいいのだが、明らかに悪役な私達は完璧を期しても安心できない。
「フッ、どれだけニュータイプとして優れていようと遠い未来は視えない……不安であり楽しみだ」