第三百五十一話
「偉大なる父、祖父、叔父、叔母の意思を継ぎ、スペースノイドの安寧を齎すべく、私、ミネバ・ラオ・ザビはネオ・ジオンの王であることを宣言する!」
その宣言はネオ・ジオン国民にとって待ちに待っていたもの……そして私も国民とは違う思いではあるが待ち望んでいたもの。
ミネバ・ラオ・ザビの即位式。
国民はジオン公国の栄光を忘れられず、富を毟り取る連邦のへ尖兵であり、自分達の守り人への期待は高い。
「ジーク・ジオン!」
「ミネバ陛下万歳!」
「ジーク・ジオン!」
「ミネバ陛下に栄光あれ!」
「ジーク・ジオン!」
「スペースノイドに繁栄を!」
ミネバの宣言を後押しするように観客から興奮した声があがる。その声は喜びと期待に満ちている。
改めて思う。
「私の居場所はここではないな。この光景を見ればもう少し心が動くものだと思っていたが……」
この瞬間は私の父、マハラジャ・カーンの意思をほぼ実現したと自負している。
父は文官気質でハト派であったことからジオン再興などできない、連邦に戦争を仕掛けるなど以ての外と思っていただろう。
しかし、ジオン再興そのものを望んでいなかったわけではない。現実として無理だと判断していたに過ぎない。
もっとも本当の目的はジオン再興(スペースノイドの独立)であってジオン公国再興(ザビ家主導国家再興)ではなかったでしょうけど……ミネバを立てなければ私が祭り上げられていただろうから仕方ないのだ。
それにザビ家支持者との派閥争いからの内部分裂などアステロイド・ベルトにいた頃では悪夢、サイド3を手にした現在でも破滅しか待っていない。
やはりミネバを立てたのは正解だと確信している。
ただし、1番の正解はアレンを味方に引き入れれたことなのは間違いない。本人は不本意だったかもしれないが宰相としての私にとっても私人としての私にとってもこれからの人生の中で最良にして最善の選択だったと確信している。
ちょっと色々と度が過ぎている部分はあるが……まぁそこも愛嬌というやつだろう。
ネオ・ジオンの老害から比べれば塵と太陽ほどの差があるというものだ。ちなみになぜ太陽に例えたかと言うとなくてはならないのだが、近寄りすぎると溶けてしまいそうという意味でもある。そこもいいんだけどね。(完全に惚れた弱みである)
「ハマーン」
「これはこれはミネバ様、このような場所に居られて構わないのですか?」
ちなみに言葉を飾っているが遠回しにここにいることを批難している。
なぜならここにいるミネバは影武者……つまりクローンの方だからだ。
今ここには私と護衛のプル2名しかいないので問題はないが、ミネバが2人も存在することは本当に限られた存在しか知られていない。
こうして公の場で1人のミネバが動いている時にもう1人のミネバが動くというのはかなりのリスクを伴う。
「わかっている。わかっているが……」
「……ハァ、どうしたの。そんな顔をして」
今にも泣き出しそうな表情をしているミネバを見て、説教は止めていつもの口調を崩して優しく語りかける……これが、最後の奉公となるのだから。
「不安なのだ。これからのことが……私は、私達は大丈夫なのか」
……そうか、あの場に立っているミネバはそんなことを考える余裕がないけど、ここにいるミネバにはその余裕がある。
今までも先は考えてきたでしょうけど、具体的な未来を描いて実現してきたのは私だった。
背負うものは全て私が肩代わりしてきたわ。でもこれからはミネバ2人が担わなければならない。
「ハマーンが居なくなることがこれほど怖いことだとは思わなかった」
私がネオ・ジオンを去る話は随分前からしていたのだからある程度は覚悟をしていたはず……なんだけど、所詮事前にしておく覚悟などハリボテでしかないということでしょうね。
そういえば、ここのところ即位式の準備に掛り切りでミネバと会うことができてなかったから余計に不安を煽ったのかしら……でもそのぐらいでこんなになられると困るんだけど。
「大丈夫よ。軍事に関してはガトーとフロンタルに任せて政治に関しては——」
……どうしよう。
政治に関して頼れる人材がいないんだけど……有能なやつはいるのよ?でも信用できるのと信頼できるのとは話が違うのよ。
私が扱う分には問題ない人材は多いのだけど……ミネバ達が扱うとなると途端に難しくなるわね。
私の場合は軍事政権であることを利用して私自身の力で黙らせてきたし、私が主導してきたのだけど……そうね。
「政治に関してはミネバ様方が好きにしてみたらどうかしら?」
「え?」
「当面は私が作った基盤を維持すれば問題ないはずだし、それにミソロギア討伐で連邦と協調すればネオ・ジオンはしばらくは大丈夫よ」
エゥーゴもティターンズもこの戦いで被る被害は多分前回の内戦を超えるものになるからネオ・ジオンと敵対するほどの余裕なんかなくなるはず。
そうなれば時間に余裕ができる。
「その中でミネバ様方が信用できると思う者を探して見るといいわ。きっと見つかるから」
「……わかった」
「最悪は軍を頼ってしまえばどうとでもなるわ」
「少し野蛮が過ぎる気がするが?」
国家の運営なんて結構野蛮なものなのよ。
賢く言葉で語らっているように見えるかもしれないけど、実際は言葉という刃で切り合っているようなものだもの。
「……こうやって話すこともできなくなるのか……寂しいな」
「そうですね」
「嘘だな。ハマーンはそれより楽しみにしておる」
やはり一緒に居た時間が長かったこともあってわかってしまうようね。
「ここで私の人生は終わり、ここから新たに私の人生は始まるのよ」