第三百五十三話
シャアが頭を抱える頃、パプティマス・シロッコの耳にも同じ情報が……いや、より詳細な情報が入っていた。
それもそのはず——
『というわけで私達の討伐には是非全力をもって挑んでもらう』
「……神は人間に試練を与えるのが趣味だというのは本当らしいな」
『神とは変人、趣味人の称号だろう?私や貴様に相応しい』
パプティマス・シロッコはアレン直々が入って事情説明をされていた。
その理由はエゥーゴはその成り立ちの関係上、有無を言わさず討伐に来ることは確定していた。
だが、ティターンズのトップであるパプティマス・シロッコはアレンを崇拝していると同時に畏怖しているため討伐に参戦するつもりがあったかどうかというと、なかった。
エゥーゴとニューオーダーがアレンと戦えば、勝敗がどうなろうと致命傷を得ることは明白。そうなれば無傷であるティターンズの一人勝ちを狙うことができるのだから参加する道理はない。
それを察しているからこそアレンは直々にパプティマス・シロッコに討伐参戦するように伝える(命令)ために連絡を入れてきたのだ。
「私程度が神を名乗るなど烏滸がましい——」
『白々しい。私が居なくなった後は神の座を狙っているくせに』
「神は烏滸がましいというのは事実……しかしルシフェルぐらいにはなりたいものですね」
『堕天するのか。まぁ天使だろうが悪魔だろうが人間の範疇ではない変態には違いないだろうが』
しかも堕天して魔王というトップになっているのだからむしろ格が上がっていると考えることもできる。
『それで私主催の最初で最後の祭りに参加してもらえるのかな?』
「謹んでお受けします」
『私の期待を裏切らないことを期待している』
そう言って通信が切れる。
それと同時に座っていたソファーの背もたれに身体を預けて天を眺める。
「……神話の時代より神を楽しませるのは人間の務めとは言え、ハードルが高すぎる」
シロッコ自身も極秘裏に切り札とも言えるMSの開発などは行ってきたし、成果も出ている。だが、それが神……アレンを楽しませるに値するのかと言われれば疑問がある。
「それにアレを満足に動かすには私が乗るしかないが……とても満足させられるレベルに到達できるとは思えんな」
しかし、期待を裏切った時、どういう対応をしてくるのか……人道は弁えているにも関わらず気軽に踏み外して踏み躙るゆえに何をするかわからない怖さがあり、シロッコは短い時間でどうにかしなくてはならないという強迫観念に囚われていた。
組織の長として必要な指示を出した後もソファーで思考を巡らせること1時間ほど経ち、やっと考えがまとまったのか、ソファーから身体を起こして通信を入れようとした時——
「……ふふ、そうか。やはり私もまた人間の範疇でしかないということか」
逆に通信を知らせがあり、そしてその通信相手は——
「そちらから連絡が来るとは思いもしなかったな」
『君の思想には理解できるがニュータイプとはそこまで超越した存在だとは思えんからな』
「笑止、アレン・スミスという高みを知ってまだそんな戯言を言うか、クワトロ・バジーナ」
『人類の進化の先がアレンだと言うならこのままの方が全生命のために進化はすべきではないな』
「くくく、それは否定できないな」
神という存在は憧れこそすれ実際になろうというものではないというのはシロッコも同意だった。
だからこそ例えはルシフェル、あくまで神の使いである天使の最上位を目指すという意味でもあった。
「それで要件を聞こう。まさかこのような雑談をするために連絡してきたのではないだろう?」
『そうだな。本題といこう。単刀直入に聞くが近々アレン達に宣戦布告するという話は聞いているだろうか』
「つい先程本人から聞かされたところだ」
『……ということはこちら側で参戦するということでいいのだな?』
「やむを得まい。アレンに期待しているとまで言われては、な」
『それは……ご苦労なことだな』
「何を他人事のように言っている。貴様やアムロも含まれているような口ぶりだったぞ」
『我々を使って最後の実戦形式で実験をするつもりか』
ため息を漏らしたのはクワトロだけだったがシロッコも同じ心境である。
『そこで提案がある』
「……ラスボスを前にいがみ合っていた者同士が協力する。まるで小説の世界のようだな」
『あいにくその手のものには疎い』
「娯楽として楽しむ気になれなくとも発想の手助けになる場合がある。触れておいて損はないぞ」
『心に留めておこう。それで早速だが——』