第三百五十四話
全世界に向けて、連邦から発表がされた。
その放送には演説するニューオーダーの武のトップであるジョン・コーウェン、政のトップであるジーン・コリニーが並び、その後ろには映像が流れている
その映像というのは大凡(おおよそ)の人間が嫌悪するような人体実験、大量に製造されるMS、輸送船を襲う海賊、培養槽に浮かぶ縦か横の半分しか存在しない人間の身体、見るだけで痛みを伴いそうな拷問、ジャブローで起こった核爆発、30バンチコロニーにガスを注入する光景、デラーズ・フリートが行ったソロモンの悪夢、そしてノイエ・ジールの激闘とその背景には地球に迫るコロニー落とし、グラナダへのコロニー落とし、グリプス2のコロニーレーザーによるコロニーの破壊などである。
「——これらは全てアレン・スミス率いるミソロギアが行ってきた所業!悪である!完全な悪である!ここにミソロギアの討伐を宣言する!!」
ジョン・コーウェンによる宣言は実のところ連邦による公式的な宣言ではない。
全世界に放送して自らの主張を正当化する非合法な手段だ。
しかし、これを黙認、容認してしまうのが連邦が腐敗していると言われる所以といえる。
ちなみにティターンズの行った非道はミソロギアにジャミトフがいるため冤罪ではない……が、既に裁かれている者を再度裁くという常道ではないものであるが、ティターンズの不都合な過去をミソロギアに押し付けるのも新生ティターンズがミソロギア討伐に参加する条件にニューオーダーと話し合った結果である。
「討伐予定は——」
続いてジーン・コリニーがこれからの予定を告げようとした時、映像に乱れが走る。
乱れはだんだんとひどくなり、そして新たな映像を映し出す。
「盛大な紹介に感動を禁じえない。それゆえに興が乗って姿を見せてみた。私がミソロギアの統べる者アレン・スミスだ」
本当に極一部しか知られていなかった存在であるアレンが映像に映し出された。
全世界の視聴者は想像していた極悪非道な犯罪者というにはあまりにも幼くみえるその容姿に騒然とした。
「このような形で私のように犯罪者やテロリストのような扱いを受けている者が電波ジャックを行えば弁明や身の潔白を訴えることが常道でしょう——」
一呼吸置き——
「——だが私は否定しない。全て肯定しよう、いや、それどころか今語られたことは事実のほんの1部に過ぎない。視聴する者が聞けば、見れば、知れば、その善心によって私を裁判なんて悠長なことをせずに死刑だ、と訴えるだろう」
その幼い容姿から紡がれるのは文字で表せば懺悔にも見えるが、映像と肉声では声も幼いことも相まって自分のイタズラを嬉々として報告する子供のようにしかみえない。
「だから遠慮せずに掛かってきなさい。全力をもって。自分で言うのも何だが、これほど分かりやすい悪はそうはいない。なら戸惑う必要はない——」
「私達も全力をもって出迎えよう」
その言葉と同時に文字通り世界中がアレンを【感じ】た。
動物は混乱して暴走し、赤ん坊や幼児は泣き叫び、大人も背筋が凍る。
「では、お越しをお待ちしております」
「やってくれたな。アレン」
「フフフ……さすが神、やること成すことが常軌を逸している」
シャアは胃が痛いのか胃があるあたりを手で擦り、シロッコはもうどうにでもなれ的な雰囲気で笑っている。
2人は電波ジャックからの宣戦布告など聞かされておらず、世界中から問い合わせが殺到し、対処に追われている。
なにせ世界中で原因不明の悪寒が走るという怪奇現象までが重なったのだから世界中で不安を叫ぶ声にあふれて仕方ないことだろう。
「おかげで出撃の予定が遅れてしまうとは……」
問い合わせの対応に追われ、しかも動物の暴走や人間に与えた影響で事故が多数発生している。
そして事が大きくなりすぎてニューオーダー、エゥーゴ、ティターンズで動くはずだったのだが連邦のお偉方が横槍を入れてきたことで話がややこしくなった。
簡単に言えば連邦軍も参加させろというのだ。
「だが、時間ができたのは私達にとって好都合だろう?」
「それはそうだが……」
エゥーゴもティターンズも準備不足なのは隠しようもない事実である。
だからこそ時間ができることは喜ばしいはずなのだが——
「私達の時間ができることよりアレンに時間を与える方がデメリットが大きそうだ」
「……確かに」