第三百五十五話
こちらの開戦、地球圏離脱予定を1週間過ぎた。
しかし、私達はまだ地球圏にいた。
「アレンがあんなラスボス感溢れる放送するから皆怯えて恐慌状態なのよ」
ハマーンの言う通り、せっかく悪役を演じるのだからそれらしくラスボス感を出したが……うっかりなりきり過ぎて私の思念を解放してしまったのが最大の失敗要因だろう。
なぜか知らないが私の姿を見た者達が幼いや小さいや子供などといったふざけた思念が多くてイラッとしてやった。反省も後悔もしていない。
「でもアレンらしいわね」
そう言って以前のように宰相の仮面と素の自分とのギャップで疲労して情緒不安定になっていた様子はなくなり、自然な笑顔を浮かべるようになったのは良いことだと思う……しかしだ。いつまで私抱っこしているつもりだ?
こちらに来て感動の再会……などする間もなく、早々にクィン・マンサIIの慣熟訓練に叩き込んだことへの謝罪も込めて自由時間には好き勝手させているが好き勝手し過ぎている気がするぞ。
プルシリーズからの冷ややかな視線に気づいていないとも思えないのだが。
ちなみに恐慌状態に陥ったのは何も連邦やネオ・ジオンの人間達だけではなく、ミソロギアのプルシリーズも同じ……いや、それらよりも酷かったと言える。
他の者達よりも物理距離が近かった分だけ私の思念を受ける量が多く、そして地球まで飛ばす思念はその距離に比して多く……つまり地球に送るための膨大な思念を間近で受けたプルシリーズが恐慌状態に陥ったのも仕方ないことと言えるだろう。
危うくコロニーに穴を開けかけたのだが大目に見よう。
「でも大丈夫なの?連邦まで来ちゃうみたいだけど」
今、私達の討伐が遅れているのは一重にそれが原因である。
絶対の悪、それを打ち破る正義。
こんな美味しい話をエゥーゴやティターンズだけに貪らせるなんて地球連邦はそんな綺麗な存在ではない。
一年戦争、デラーズ紛争、エゥーゴティターンズ内戦などを経たが、全てが失策。名誉挽回、汚名返上の機会に飢えている。
ジオン残党の討伐の功績をティターンズに譲ったのはそもそもジオン残党が地球連邦にとってヘドロのようなもので、掃除することが名誉に感じなかったからだろう。
何よりジオン公国を生み出したこと事態が地球連邦の失策、その後の被害も自業自得の産物な上に、ジオン公国そのものが誰かの正義であり、その誰かは決して少なくなかった。
それに比べて私達はジオンに関わっているが、その関わりは現在希薄で、しかもほぼ全人類にとって悪と言える存在となった。
出てこない方がおかしい。
「数はマゼラン級が3、サラミス級12、コロンブス級4、ルナツーからの出征のためにMS搭載機数は80機と考えて368機、しかも大部分は旧式のジムIIや延命機であるジムIIIやジムキャノンがほとんどだな」
「数よりもその武装が問題ね。ほとんど実弾にしてるって話でしょ」
エゥーゴ、ティターンズと連邦の違いは多々ある。
基本的に最新機が配備されるのはエゥーゴやティターンズ、兵士の練度も同じくエゥーゴやティターンズの方が勝る。
ただし、地球連邦軍にはそれらに勝るものがある。
それは豊富な兵站だ。
MSは最新ではないし、兵士の質も悪い、しかし、兵器を十全に活動させるだけの兵站は用意されている。
エゥーゴやティターンズは標準装備としているビームライフルやバルカン、ミサイルランチャー、バズーカはどれも強力であるが、その反面それ以外の武装は軽視されている。
地球連邦軍はそれらに加え多くの実弾兵器を保有しており、宇宙では標準装備されている。その理由が私の作ったノイエ・ジールの脅威から来るというのがなんとも皮肉なことであるが。
「実弾兵器で武装しているからと言ってもあまりにもMSが旧式過ぎるから問題にはならんと思うがそれなりの対策は打ってある」
「そう、なら問題ないわね。それに……私とイリア、それにプル達が揃っていて負けるわけないもの」
「カミーユは除け者か?それに——」
「?」
私も忘れていないかね?