第三百五十六話
「なかなかに壮観だな」
「この状況を壮観の一言で片付けるとはさすがアレンだな」
私が見ているモニターには大艦隊の行進が映し出されている。
特に目立つのはドゴス・ギアの後継機らしき大型戦艦か。
今まで見かけたことがないということは切り札か、もしくは切り札を搭載している可能性が高いな。
それにドゴス・ギアとなるとティターンズ系統だろうからおそらくシロッコの切り札……敵ながら期待してしまう。
他は目新しい艦は……あれは配備されて以来出て来なかったアーガマの親類らしいネェル・アーガマもいるな。
今まで出さなかったということはこちらも何かあるのだろうが——
「進行速度が遅い」
「コロンブス級の足に合わせているのだからそうもなろう。それにあの速度から察するに規定の積載量を超えて搭載している可能性があるな」
大艦隊の移動速度が遅いというのは当然のことでイラつく要因とはならない。
しかし、元々の開戦予定日から3週間も経過しているいい加減待たされているのだから苛ついても仕方ない。例えその原因が自分にあったとしても、だ。
「ところでジャミトフは本当にここに馴染んでいるのね」
私達の会話を聞いていたハマーンが感慨深げにつぶやく。
以前からジャミトフがここに馴染んでいることはハマーンも知っている。知っているがそれはハマーンがミソロギアで過ごす休日という限定的な時間の中での情報で、今の感想はミソロギアで生活してから得た情報で抱いたものだろう。
「意外かね」
「不思議と違和感はないわね」
「私としてはネオ・ジオンの宰相という座を捨ててまでここに来る方が意外なのだが」
「アレンを愛してるというプライスレスを抜きにしてもニュータイプにとってここは居心地がいいのよ。ジャミトフにはわからないだろうけどカミーユやフォウあたりならわかるんじゃない?」
「あ、ああ、アレンの訓練が厳しいとかアレンの実験に良心が痛む以外は本当に居心地がいいと思うぞ」
はて、訓練はともかく実験は悟られないように手を打っているはずだが……ああ、なるほど、ジュドー達に課した試練の話を聞いたのか。
それとハマーン、軽々しく愛してるなんて言うものではないぞ。
「そのあたりの折り合い、まだつけてないの?」
「良心は残しておいた方がいいだろ。ここにいるのならなおさら」
「なるほどね。それも悪くないかもしれないわね」
カミーユが言う通り良心を持つ者がいるのはメリットだな。
私やスミレ、中身が子供のプルシリーズ、そしてプルシリーズを孫扱いして可愛いがっているジャミトフという圧倒的に良心の無き者の方が多いからな。
自覚があるなら改善しろ?残念ながら私は良心に価値があるのは認めるが興味がないのでパスだ。
ジュドー達やシロー夫妻はまだ良心があるが、ミソロギア内では新人なので発言力は小さい。
ちなみに今回の大戦にはジュドー達とアイナ夫人とギニアスJrはミソロギアで留守番、シローは空母の艦長として参戦する予定だ。
「……ハァ……」
「どうした。ハマーン」
「いえ、邪魔しかしない味方、言葉が通じない味方、足を引っ張り合う味方がいないって幸せよね。本当に」
「わかるぞ。本当にそういう輩の相手は疲れる」
「本当にね」
とハマーンとジャミトフが組織を率いていた者しかわからない共感をしている。
カミーユも言いたいことの意味はわかるが、所詮パイロットという末端でしかないので完全に理解できるものではない。
ちなみに私も組織を率いる者ではあるのだが、組織自体が特殊過ぎるため適応外である。組織運営というよりどちらかというと子育てに奮闘中という感じだろう。
「……」
「どうしたカミーユ」
「いや、クワトロ大尉も参加しているのかなって考えていたんだ」
アムロは宇宙に上がってきたままだから参加するだろうと考えているわけか。
「参加しているぞ」
「……そういうことは早く言って欲しかったな」
不満げに言われても困るぞ。私も先程察知したのだから仕方ないだろう。
「あの地球から上がってきたラー・カイラムに乗っているようだぞ」
「ナタリーとは今生の別れ済ませてきたのかしら?まさか昔からの仲だからって手を抜くつもりはないのだけど」
「その心配はないようだ。しっかり覚悟を持ってこちらに来ている」
「そう……なら全力で潰してあげないとね」
ナタリーとシャア……特にナタリーとは旧知の間柄であるハマーンに戸惑いが生まれないか心配だったが、この様子だと問題なさそうだな。