第三百五十七話
「極悪非道、宇宙世紀最大の犯罪者アレン・スミスに告げる!無駄な抵抗はやめ、大人しく投降しろ。大人しく投降するなら温情を与えてやろう!」
一体何様なのかしらね。このハゲ……確か連邦軍の中将だったかな。
ちなみに演説を意訳すると「面倒だから降伏して大人しく俺たちに尽くせば死刑だけは見逃してやる」ってところね。
今更降伏するなら最初からミソロギアに立て篭もらずコロニー落としでもしてるわよ。(たった3週間しか経ってないのにすっかりアレン色に染まっているハマーン)
「それにしても……アレンは凄いわよねぇ。このハゲ散らかしたおっさんが指揮を取るってことが事前にわかってるんですもの」
情報を入手できるルートなんてもうないのに、この場の情報ならアレンだけで入手できてしまうのよ。背景は限られた部分しかわからないみたいだけど実際に動いている情報だけでも大助かりよ。
ネオ・ジオンの情報網構築に一体どれだけのお金と人材と時間を費やしたか……組織のトップとしては嫉妬してしまう……けど、既に私はアレンの妻(脳内)だから問題ないわ。
実際このハゲ中将が指揮を取ることになったのはアレンから聞いていたし背景もある程度把握している。
今回の戦いは複数の組織が参加するにあたって指揮を誰が取るかという問題に直面した……ネオ・ジオンすらも参加するのだから当然よね。
そこで1番数が少ないくせに看板だけはでかい地球連邦軍が指揮を取ることになったみたいね。当たり前といえば当たり前だけど納得行くかどうかは別問題で、他の勢力は開戦前から士気激落ちしてるって言ってたわね。
あ、モニターにアレンが返答するみたいね。録画は……ちゃんとされてるわね。よしよし、まぁ私がしなくてもミソロギアのデータベースとかプル達が録画してるだろうから別にいいんだけど。
「腐敗臭漂う正義の味方とその犬、猿、雉も迷子にならずよく来たな。絶対悪の魔王城へようこそ」
そこは鬼ヶ島じゃないのね。まぁ鬼ヶ島よりも魔王城の方が凄そうだし似合ってるけど。
「私は降伏を促すなどという優しさは持っていない。だが、せっかく温情を示してくれたのだから私も温情を与えよう」
あ、これ、絶対ろくでもないやつだ。
「捕虜となった者には100年の寿命とそれと等しい時間の実験台という役職を用意しよう」
やっぱりろくでもないことを言い出したわね。
相手の逃げ道まで塞いでどうするのよ。これじゃ必死に抵抗されるじゃない。
そこまでラスボス感を出さなくてもいいのに。
「もっとも——生きていられたら、だがな。さあ、歓迎の宴を始めようか」
戦いの幕開けよ。
「ミノフスキー粒子増大!既に戦闘レベルに到達!」
「敵コロニーより多数のミサイルが発射!」
「いえ、ミサイルにしては大きい?!……データ照合の結果、ミソロギア所属の無人MSの母艦のようです!」
「観測結果、無人MS母艦の数100!無人MS母艦の搭載数は3機ですので敵MSは300と推定!」
「300だと?!たかがコロニー1つを占領しているに過ぎない犯罪組織がなぜそれほどの戦力を?!」
名もなきハゲ総指揮官がオペレータの報告に唾を飛ばしながら叫ぶ。
アレンとミソロギアの連邦の認識はコロニーに巣食うマフィアという程度の認識でしか無い。
元々名誉目当てのハゲ総指揮官は相手がどれほどの戦力を保有しているのかも知らないのだ。
「宇宙海賊相手に戦っていた無人兵器なぞ大したことはないだろう我々で迎撃するぞ。他は奴らには周囲を警戒させろ!ああ、しかし艦砲射撃だけは参加させてやるか」
「了解。エゥーゴ、ティターンズ、ネオ・ジオンには周囲警戒と艦砲射撃の参加を伝達」
「艦砲射撃後、MS部隊発進させます」
ミノフスキー粒子下で満足に運用できる無人兵器は実用例はない。
故に無人兵器と聞けばミノフスキー粒子影響下では敵にならないだろうというハゲ総指揮官の判断はある意味正しく、手柄を地球連邦軍で独占しようというのも名誉欲で総指揮官になった彼にとっては当然の判断だろう。
ただし、それが正しい判断かというと話は別である。
「敵艦、有効射程まで、10、9、8…………2、1、砲撃始め」
500隻を超える艦による一斉射撃は一年戦争初期の戦いであるルウム戦役を思い起こすものがあった。
その艦は連邦系もジオン系も混ざっているという違いがあるが。
「第1射被弾観測————は?」
「観測班!報告をあげろ!」
「被弾……です」
「聞こえん!」
「被弾ゼロです!」
「なに?!なんの冗談だ!」
「事実です!被弾認められず!」
観測員の言っている通り、無人MS母艦は全艦健在で真っ直ぐ……地球連邦軍の艦隊に前進している。
ちなみに地球連邦軍、エゥーゴ、ティターンズ、ネオ・ジオンはそれぞれの勢力で固まって陣を敷いている。
混ぜてしまえば故意の誤射や命令違反などが発生することを恐れての配慮である。
ただ、数が少ない地球連邦軍とネオ・ジオンは、連邦軍はティターンズ、ネオ・ジオンはエゥーゴと比較的近くに配備されているのはそれぞれの成り立ちから相性がいいだろうということでそれぞれ独立していながらも連携できるようにという面倒な配慮がなされている。
「ちっ、もう1度だ!今度は副砲もだ!」
「了解!」
そう指示した頃、シャアとシロッコは嫌な気配を感じ取っていた。
((あの小型艦全てからアレンの気配がするだと))
宇宙警備をしていた頃の無人兵器はアレンが操作するのは戦闘時ぐらいであるため、この2人が察知する機会はなかった。
戦闘中の現在、アレンが操縦しない理由もない。
(それに——)
(——一部からはとてつもなく嫌な気配を放っている)
正確には3隻から濃密な気配を感じ取れていた。
それらは全て連邦に向かっている。
(連邦軍か……シロッコに任せるとしよう)
(オールドタイプのフォローをしないといけないとは……面倒な)
シャアはシロッコに対応を投げ、シロッコも嫌々ながらもハゲ総指揮官に連絡を入れる。
「どうやら相手は並々ならぬ相手のようなのでこちらからもMS隊を差し向けましょうか?」
言葉だけ聞くと至って普通のフォロー、ただし、シロッコの表情は内心を若干映し出して上から目線の傲慢な態度にしか視えなかった。
そしてそれを許容できるハゲ総指揮官かというと——
「お前らは黙って襲撃に備えて警戒していろ!」
ある意味清々しいほど無能(で死亡フラグ建築士)な総指揮官である。