第三百五十八話
「哀れ、そして愚かな。予定ではMSを減らす予定だったのだがな……」
私の予想を遥かに下回り、第一波であるリサイクルMD(在庫処分セール)を迎撃に出撃したのはなんと連邦軍のみ。
どうも総数の予想こそ上回り400ほどのMSを搭載していたようだが迎撃に差し向けたのは350ほど、残りは護衛に回したが、ただそれだけ。
陣容から察するに連携を取る予定だったであろうティターンズとも連携を取らないとは……こんな奴らが地球圏の覇者とは失笑ものだな。
「さあさあ、早く止めなければ大変なことになるぞ」
100のMD母艦のハッチをパージし——
「前菜ではあるが……どうも連邦の奴ら、メインディッシュと勘違いしているのがなんとも言えんな」
MDを解き放つ。
操縦者は前哨戦に相応しく、下位ナンバーに任せてある。
最優先事項は迎撃のMS部隊の排除……ではなく、あくまでMD母艦の護衛だ。
速度を緩めないMDと母艦はそう時間を置かずして迎撃部隊と衝突する。
パパパッ火花が生まれ、それは命の最後の輝きであったり、新たな鉄屑が誕生した光である。
まぁ命を失うのは相手のみであるのだが。
MDもMD母艦も迎撃に出てきたMSとの戦闘は最低限に抑えて前進を続ける。
「迎撃部隊を半ばで損耗2割……それにしても練度が酷いな」
練度が酷いのは下位ナンバーではなく……いや、下位ナンバーも酷いのだが、もっと酷いのが連邦軍だ。
「いくら旧式とは言っても……連携は赤点なんだがそれが1番マシというのが、な」
在庫処分MDはザクIIやゲルググ、ジムやジムIIなどの旧式MSにアレンの改造を施したものであるが2割損耗、それに対して連邦の損耗は4割損耗と言ったところか。
単純に1対2の交換率であるため本来なら総数で見れば厳しい現状であるが、今回MD母艦は廃棄予定であるためサイコミュの中継機や強化人間型OSは未搭載で、離れた空母からMDを操作している。
そのためいつも以上にMDの動きが鈍い上に前進を続けるという関係上どうしても行動予測がつきやすいため被害が大きくなる……のだが、この程度で済んでしまっている方が計算外なのだ。
私の計算では良くて1対1、悪ければ4対1と出ていた。それなのにまさかの体たらく。
酷い酷いと聞いていたが、私が思っている以上に連邦は腐っているのかもしれないな。エギーユ・デラーズやガトーが核撃ったりコロニー落としをしたくなるのもジャミトフが乗っ取ろうとしたのも少し理解できたかもしれない。
「まぁ新兵が多いようだから仕方ない……のか?」
ベテランパイロットや有能なパイロットはエゥーゴやティターンズに抜かれ、元々も質よりも量という性質がある連邦には良くも悪くも平均的なパイロットが多く、そして平均的なパイロットは意外とパイロットという職からの離職率が高い傾向になるらしい。
命がけで戦うには平均、平凡な軍人では長く続かないようだな。
そもそもエゥーゴとティターンズに仕事を奪われ、内紛という経験を積んでいる方が異常と言ってしまえばそれまでだが。
「あのMSは後でいい!なんとしてもあの艦を沈めろ!!」
ハゲ総指揮官はそう指示した。
それはシロッコやシャアからの忠告などではなく、大した能力がない彼がここまでのし上がってきた唯一特化している能力、危機回避能力が活躍した結果であった。
そもそも艦が、しかも戦闘能力が皆無の艦が前線に、MSと紛れて突撃してくること自体異常なのだ。
どんな優れていても艦は後方から援護、もしくは射撃すること、生存することが最優先である。にも関わらず突撃してくる……となると何かがあると思って然るべきで、それを察知するのは割とハゲ総指揮官は早かった。
もっとも——
「1隻撃破!後90!」
早い内に指示したにも関わらずまだ10隻しか落とせずにいた。
練度不足というのもあるが、操作するのがニュータイプを超越したニュータイプであるアレンだということもあり、高速度で運動性が落ちているにも関わらず回避能力に優れているのだから当然ではあるのだが——
「くそ、役に立たない奴らめ…………ちっ、ティターンズにこちらへ至急部隊を寄越すように命令を出せ!」
あの艦隊を近づけさせるのはやばいと彼の危機回避能力が警鐘を鳴らしてやまない。
命令を受けたティターンズはすぐに行動を開始するが——
「やる気あるのか!」
確かに命令どおりティターンズは攻撃を開始した。しかし、それは明らかに距離をおいての攻撃に留めており、自分達は巻き込まれないようにしているそれであった。
(いかんな。これは……)
数瞬、思考を巡らせるが、本能に従い——
「交戦距離が近すぎる。艦隊を後退させよ!護衛のMS隊を全面に押し出せ!エゥーゴに護衛MS隊の援護をさせろ!」
言っていることは事実で対処も間違っていないが、明らかに戦いから逃げようとしていることを感じたブリッジクルーだったが、特に反論せず、命令を復唱して従う。
「残念だったな。その判断は一歩遅かった」
「敵艦加速?!なにこの速度!!」
その報告で総指揮官は背筋が凍る——が慌てて指示を投げる
「撃て!なんとしても落とせ!後のことなんぞ構わん!撃って撃って撃ちまくれ!!」
その指示はブリッジクルーの行動の後押しをしたに過ぎなかった。
ブリッジクルーも尋常ではない艦の対処を独断で開始していた。
本来なら越権行為で問題になるが、命あっての物種である。
加速したMD母艦は回避能力が著しく落ち、次々と落とされていき、40を下回る。
しかし——
「1つは落とされたか……まぁ2つもあれば十分だろう。では、これが私から君達への最後の贈り物……送り火となるだろう」
そして宇宙に閃光が走った。