第三百五十九話
「本当にアレンは戸惑いがないな。核すらも容易く使う」
「ジャブローの核爆発すらも私のせいになっているのだから戸惑う意味がないな」
もっともそれがなくても戸惑うことはなかっただろうがな。
GP02のアトミック・バズーカの原型。
それが連邦軍の艦隊をほぼ壊滅、MS部隊半壊、ティターンズの艦隊は無事だが、増援に出したMS部隊に若干の被害を与えたものの正体だ。
実際ガトーがソロモンで使ったアトミック・バズーカはデラーズ・フリートによって改造されて戦術クラスから戦略クラスへとグレードアップされたものである。
そちらにすることもできたのだが、あれはGP02が突出して使用することが前提であり、私達のような守る側が使用するには不便なものなのだ。
分かりやすく言えばアトミック・バズーカの生み出した余波やデブリによってコロニーが破損してしまう可能性がある。守り通すこともできるだろうがその手間は戦場では隙となり、致命傷となりかねない。
「それにTRシリーズの最終形態は核を搭載しようとしていたのだから同じ穴のムジナだろう?」
「抑止力としてあるだけでいい……なんて甘い考えではなかったが、アレンほど息を吸うように使うことはできんよ」
さて、どうだかな。
宇宙での核使用はハードルが低い。
ジオン公国が開戦当初に用いたことからもわかるだろう。ならティターンズにそのハードルを越えないだけの心の強さがあったかというと……間違いなくないだろうな。
「さて、雑談はこのあたりで終わりとしよう。連邦にも挨拶は済んだ。全軍出撃せよ」
ミソロギアから母艦級4隻、空母級2隻、そして——
「あれはアッティスか」
アッティスの出撃はアレンが直々の出陣を意味している。
それをシャアは知っていたため、安堵と不安が入り交じる。
安堵はアッティス以上の戦艦をアレンが開発している可能性があった。しかしアッティスが出てきてそれにアレンの存在を強く感じる以上、アレンが搭乗しているのは間違いない。
となればアッティスよりも上位のものが出てくることはないだろうと予想できる。
ただし、アレンとアッティスが戦場に出てくるということ自体には不安を隠せないのだが。
「ネェル・アーガマより入電、ハイパーメガ粒子砲によるコロニーの狙撃を試みるそうです」
「了解した。健闘を祈る」
ネェル・アーガマが配備されて以来、出撃することもなく秘匿されていたのはこのハイパーメガ粒子砲のせいである。
1度の戦闘に1回しか使えない、使えば他のメガ粒子砲も使えなくなる、固定砲であるため艦そのものを固定する必要があり、その関係上細かい照準が難しいなど制限こそ多い。
だが、その威力はコロニーレーザーに匹敵する。
簡単に言ってしまえば動く小型コロニーレーザーと言い換えることもできる。
そんなものが存在するという事が知られれば騒乱の種になりかねないため秘匿していたのだ。
決して厄介な存在が同じものを作る……いや、それ以上のものを作り出すのを恐れたからでは……。
「敵大型艦、中型艦からMSが出撃……ってなんだこれ?!」
ラー・カイラムのナビゲーターを務めるトーレスは観測した敵影が目に入ると驚きの声を上げた。
「これは……」
モニターに映ったそれを見て声を失う。
驚きは3つ。
まずはMSらしくないそのデザイン。
天使が戦装飾している、俗に言う戦女神のような出で立ちをしていれば誰でも驚くだろう。
そして天使という存在は正義、善に属するものであり、そのデザインのみで精神的圧力が掛かった。
次にパノプリアの多さ。
元々GP03デンドロビウムをモデルとして開発されたパノプリアはサイズも同じ規模であり、エゥーゴティターンズ内紛において大暴れしていてある意味クィン・マンサと並ぶ存在感であった。
そんな存在が20も並んでいる光景は見ているだけで仰け反りそうな威圧感を発していた。
そして3つ目は、数だ。
ミソロギア、アレンが通常とは違うことはシャアやシロッコも承知の上であった。
しかし、まさか1000を超えるMSを投入してくるとは思いもよらなかったのだ。
アレンの存在を知る者達ですらそうなのだから、知らぬ者達のリアクションは推して知るべしである。
「ナタリー……約束は果たす」
なんとしても帰るという約束だけは守る決意を新たにする……例え降伏することになったとしても。