第三百六十話
「MS隊再編完了しました!」
「他はどうか」
「ティターンズはまだ少し混乱していますが間もなく再編できそうです。ネオ・ジオンは既に完了。連邦は……」
言葉は続かなかったが誰もが理解する。
地球連邦軍は機能しないだろうと。
艦隊の生き残りはサラミス数隻とMSを吐き出して用済みとなって後ろに控えていたため巻き込まれずに済んだコロンブスのみ、MS隊は艦隊の消失に動揺しながらも同じように残った少数のMDと戦闘中である。
ちなみに地球連邦軍のMS隊が全滅していないのは核による大量の死者が出たことで思念が入り乱れた結果MDも停止……プルシリーズにも動揺が走ったことで動くことができなくなってしまったのだ。
下位ナンバーは経験不足であるのは間違いないが、今回に限って言えば下位ナンバーではなく中位ナンバーであったとしても同じ結果となっていただろう。
それだけの思念が溢れていたのだ。
「MS隊に——「ネェル・アーガマから入電!30秒後撃つそうです!」——了解した。MS隊に地球連邦軍と戦っている敵の排除に向かわせろ」
迫ってくる敵との交戦までにはまだ時間があるため目の前の敵を排除することにした。
「パプティマス・シロッコ中将より通信!」
「モニターに出せ」
ここからの()内は本音です
『挨拶は抜きにして本題に入ろうと思うが?』(時間もないしな)
「同意する」
『なら手短に、私達の指揮権をそちらに渡す』(責任はそちらが持て)
「いいのか?」(責任を押し付けるな)
『バラバラに戦って勝てる相手ではないだろう?』(そもそも負ける戦いだからな)
「しかし、そちらの兵士は納得しているのか」(一緒に責任を取ろうではないか)
『私の部下に私の決定に背く者はいないさ』(つべこべ言わずとっとと指揮執れ)
「まるで独裁者だな」(いやいや、そうは言わずに)
『指揮権を渡そうとしているのに独裁者も何もないだろう……そろそろ時間だ』(よし論破、後は任せた)
「……わかった。では指揮権を預かろう」(くっ、後で覚えてろ)
時間というのはもちろんネェル・アーガマのハイパーメガ粒子砲のことなのだが——
「気のせいか、ネェル・アーガマの射線から敵が移動している?」
シャアの呟く通り、ネェル・アーガマのハイパーメガ粒子砲の射線からはミソロギアの戦力はほぼ離脱している。
射線上に残っているのは——
「あれは……ソーラ・システムか?しかし、太陽はこの時間では届かないが……アレンがそんなミスをするはずがない。となると防御兵器か?」
今更、ネェル・アーガマの狙撃に何故気づいた?!などという驚きなどはシャアにはない。
むしろ普通に狙撃して、普通にミソロギアに命中して、普通に被害が出た方が驚き、恐れるだろう。一体何を考えているのか、どんな仕返しが来るのか、どんな裏があるのか、と。
「ネェル・アーガマ、ハイパーメガ粒子砲発射され……ま……した…………目標……着弾……被害なしだってえ?!」
「なるほど、移動砲台か。何やらこそこそと動いているかと思えば……しかし、威力だけみればコロニーレーザーと同等レベルとは大した隠し札だ」
さすがにこれほどの威力だとミソロギアに大穴が空き、甚大な被害を被っていただろう。
「おかげでこれの信頼性も高まったがな」
この一見ソーラ・システムに利用されているミラーにしか見えないこれは簡潔にまとめるとシールドビットの発展型だ。
エゥーゴティターンズ内紛の際には使えていたシールドビットだが、現行のビームライフルは防ぐことは1度しかできない。使い捨ての盾というのは使い道がないわけではないが心許ない。
そこで開発したのがこのシールドビットの発展型……開発して満足して倉庫に放り込んでいたので名前は考えていなかったな……シールドビットIIIだ。
正確にいうとIIを完成させて使う機会がないことと生産コストの関係で量産に向かず倉庫に放り込んで、今回の戦いが決まって倉庫から出してきて更に改造して完成したのがこのIIIだ。
シールドビットIIIが例の発光現象を起こしている段階である程度概要はわかると思うが、ビットやファンネルのような受信機だけではなく、アンダーサイコミュを搭載して発光現象を引き起こしてミノフスキー粒子を操作することで対ビームコーティングなど施さずに防ぐことや——
「吐いた唾は呑めぬというが吐いたビームは呑んでもらおうか……返すぞ」
押さえつけていたメガ粒子を偏向し、来た道を帰るのを見届け——また1つ、送り火が生まれた。
「これで先程のコロニーレーザーもどきも撃てまい。元に戻すとするか」
並べていたシールドビットIIIを元の空母や母艦の外壁へと移動して張り付かせる。
艦隊戦では質では勝っても数では劣るため、撃ち合いでは不利になると考え、攻撃ではなく防御力を重視したのだ。
先程のように跳ね返すなどはドーム状に展開して受けるように配置しなければ不可能だが、ビームなら反射することが可能だ。
ただし、あまり実弾系には強くないことが弱点であるが……そのために少数で質も低いが実弾武装を多く所持していた連邦軍を核で吹き飛ばしたのだ