第三百六十二話
私の可愛い作品達よ。
最大の見せ場である。
私はどれだけお前達が素晴らしいものかは知っている。
その素晴らしさを魅せてやろうと思い、舞台を整えた。
この中には力及ばず死んでしまう者もいるだろう。
死を恐れるな。
敵の死もお前達の死も私の糧となり、新たな作品達の中で生きていくだろう。
ただし、無駄な死、生への諦めは認めない。
これより行うはお前達の価値を示す戦いだ。
今まで積み上げ、研磨したその力を存分に発揮し——
蹂躙することを私は望む。
「——リンク開始」
アレンの思念による演説が終わると同時にプルツーはサイコミュ・リンク・システムを起動し、現状を把握する。
「——座標情報——未来予測システム——リンク——発射」
後方に控える砲撃用ファンネルが一斉にビームが放たれる。
これがMS戦の始まりの一撃である。
砲撃用ファンネルの数は100、注がれたビームは1エリアに集中し、MS1機に対して1射のみ。
そして命中したのは——
「28……やはり距離があると未来予測の精度が落ちる。まだまだ精進が必要」
観測機器が制限されているミノフスキー粒子下でたった1度の長距離を一斉射で機動兵器であるMSに対して約3割の命中率というのはありえないものである。
そんな命中率であるなら地球連邦の以前の方針である大艦巨砲主義で十分なのだ。
「——マーク、レッド——マーク、オレンジ——マーク、イエロー——マーク、ホワイト」
そして砲撃を躱した機動から敵の操縦技量を推し量り、危険レベル選定を行う。
レベル分けはレッドが最上位警戒、オレンジが要警戒、イエローが一般枠、ホワイトが無能と分けられる。
そして砲撃で崩れたエリアにレナスが速度を上げて切り込む。
技量がわかれば戦力配分を分かりやすくなる。そして実力がない者から刈り取り、警戒レベルが高い者は無理をせずに数機掛かりで足止めを行う。
「頼むぞ。ハマーン」
「——任せなさい」
「なんだ?!あの機体の速度は?!」
「カ、カメラが間に合わん?!」
「今あいつ直角で曲がらなかったか?!」
「当たらない!やつは未来でも視えているのか?!」
崩した陣からなだれ込むレナス、そしてレナスが傷口を広げて更に奥へ奥へと進む1機のMS。
「その程度で私と私のためにアレンが特別に作ってくれたクィン・マンサIIに勝てると思っているのかしら……もしそうなら——」
——死に値するわ——
瞬く間に広がる爆発。
その数は40。
それはいつの間にか展開されたファンネルとクィン・マンサIIによる攻撃によるものである。
「ああ、私のための……私達のための戦い。とてもいいわ!」
戦争には大義名分が必要である。
なぜなら多くの存在に肯定されない殺しはただの殺人である。
ゆえに一般的な価値観を持つアレンやハマーン、スミレやカミーユなどは現在大量殺人犯に過ぎない。
だからこそ——
「ハマーン、狂ったか」
「事実はどうあれお前達の行いを見過ごすわけにはいかない」
「アレンがいなければ神と崇めていたかもしれん美しさだ」
そこに現れたのは他のMSとは明らかに異なる趣を放つ3機。
自分自身で設計し、最適化を施し、更に最新技術を導入して完成したHi-νガンダム。
Hi-νガンダムから得たなノウハウや対アレンに備えて結んだエゥーゴティターンズ同盟によって手に入ったジ・オやTRシリーズのデータを盛り込まんで作られたナイチンゲール。
そして元々天才(凡人の中では)であるシロッコが新たに設計したジ・オの後継機、それをナイチンゲール同様エゥーゴとの同盟で得た技術で昇華したジ・オII。
「あら、狂ったなんて失礼しちゃうわね。これが元の私よ?それはそっちでもわかってるでしょ……今までの私だと思ったら大間違いよ」
ネオ・ジオンの宰相という抑圧された環境から解放されたハマーンのニュータイプ能力は飛躍的に上昇し、アレンすらも驚かせる成長をしている。
その成長は対G装備としては最高峰であるがアレンしか使うことができなかったサイコミュクッションを実戦レベルで起動、維持することができるほどになった。
それほどの成長をすれば自然と周囲に存在するニュータイプに与えるプレッシャーは強くなる。
そして、ここにはアレンが実験台にしたいと言ってやまない2人(シロッコは面倒そうで除外)であり、片方は以前からの知り合いである。
ならば、ハマーンの成長、変化に気づいて当然だ。
「まぁ私が狂ってるのも間違いじゃないけどね。愛は女を狂わせるものだし」
「……恋する乙女には悪いがここで死んでもらう」
「随分酷い発言ね。こんな可憐な乙女に殺人予告なんて……でも甘く見すぎよ——」
——プルツーを——
「これは——」
「馬鹿な。いつの間に」
「どうやら時間を与えすぎたようだな」
シャア達はいつの間にか囲まれていた。
MSはミソロギアの最新鋭機キュベレイ・ストラティオティスII、搭乗者は当然プリシリーズの上位ナンバー、数は12機。
ハマーンならシャア達3人を相手しても互角に戦うことができるとアレンの分析結果では出ているが互角というのは天秤が釣り合っているだけのことでどちらに傾くかは時の運。
そんな博打のような戦いをさせるつもりはアレンもプルツーもない。
現場指揮を握っているプルツーは早い段階でシャア達が揃ってハマーンに接近していることに気づいたのでハマーンに増援を悟られぬように注意を引くように伝えたのだ。
ミノフスキー粒子下であっても通信が可能なサイコミュ・リンク・システムのおかげでなし得た連携であり奇襲である。おそらく概要だけ聞けば最も連邦が欲しい技術だろう……ただし、実態は中枢となる使用者に十分なニュータイプ能力と優れた情報処理能力がなければ満足できる水準に達しないのだが。
具体的にはニュータイプ能力的にはアムロは達しているが、情報処理能力は足りておらず、通信などはできるが混戦する無線のようなものになってしまう。
「さあ、殺し合おうか」
ハマーンが告げるとまるで合図かのように砲撃用ファンネルがまた発射される。