第三百六十三話
シャア達はまず選択を強いられた。
相手が13機。
1機余るが1対4という比率で挑んできていると考えた。
ここで問題なのが1対4で戦うのか3対12で戦うのかというものである。
シャアとアムロは同じ組織であり、シミュレーションを共にしている仲であるため連携に問題はない。
しかし、シロッコが絡むと話が変わってくる。
今は協力関係であるが潜在的には敵であるシロッコに背中を預けるほど信頼できるのか。
そもそも1対4と3対12、+1と戦うのはどちらの方が有利なのか。
シャアは一瞬周囲の戦況を確認する。
数で負けているのはあくまでこの場の自分達のみであり、戦場全体で見ればいくら先制を許したとは言ってもまだこちらが上回っている。
数が揃えられれば有利……勝率が多少でも上がるはず……被害はこの際考慮しないものとする……と考えたのだが、周囲もそれどころではない。
プルツーによる再度放たれたファンネルの砲撃によって陣形が崩され、しかもシャア達は気づいていないが小隊の隊長と思われる機体が中心に狙われ、当然無傷なわけもなく撃破されている者が多数いる。
そのせいで指揮系統に乱れが発生し、本来なら再編や後退するところなのだがそんなことを許すほど甘くはなく、レナスが全速力で間合いを詰めて乱戦状態になってしまっている。
そのためシャア達を援護する余裕は少なくとも周囲の味方にはなかった。
それにあくまで戦っているのはレナスであり、キュベレイ・ストラティオティスやII、パノプリアなどの有人機はまだ陣形を保って射撃戦に留めている。つまり何かあった時には対処する予備戦力が存在するのだ。
とてもではないが援護なんて行える状態ではない——
「レディの前でよそ見なんてマナー違反よ。まぁアレン以外は興味ないけど」
「それは失礼ッ!」
55mという巨体からは考えられない機動性を発揮するクィン・マンサIIが一般的には大型と言われるナイチンゲールに迫る。
ビームは互いに有効打となる出力で、ナイチンゲールのシールドでは1撃は耐えれても2撃目には貫通し、クィン・マンサIIのIフィールドも防ぐには距離が近すぎて多少の減衰ができるが損傷することになる。
そのため互いに照準から逃れるように高機動で動きながら隙を付くように撃ち合う。
しかし、敵はハマーンだけではない。
「くっ、なんてスピードだ?!人間に耐えられるものじゃないぞ?!」
「ああっ?!躱されたぁ〜!!」
キュベレイ・ストラティオティスIIが2機。
その内1機が機動兵器であることを差し引いてもおかしい速度で近づき、手に持つロングビームサーベルで斬りかかってきた。
それをなんとか躱して反撃……しようとする頃には既に高速で離れていく、それに——
「やらせない」
「ちぃ、なんという弾幕だ!」
殺気を感じ、回避行動に入るシャアだがその源から放出された殺意は予想よりも多いものであった。
高機動なキュベレイ・ストラティオティスII、ハイスピードコンセプトから比べると鈍重なそれではあるが、その身に装うメガ粒子砲の数は20を超え、そして全てが可動式であるために全砲門が1つの方向に向けることが可能である。
これがどういうことかというと最初期のムサイ級の武装が連装メガ粒子砲3門、大型ミサイル・ランチャー2門、小型ミサイルランチャー10門である。
連装メガ粒子砲を分割して数えて合計すると18門ということになる。つまりこのキュベレイ・ストラティオティスIIはMSサイズで戦艦を超える弾幕を張ることが可能なのだ。
逆に言えばなんとか回避することができたシャアがそれを狙うのは当然でもあった。
鈍重で高火力と来れば防御力に優れているのは予想がついたのでナイチンゲールの最大火力である胸部メガ粒子砲を放つ——
「何?!ナイチンゲールの火力すらも通じない?!ええい、アレンめ。なんという化け物を作り出したのだ!!」
「私のキュベレイにその程度の攻撃は無駄」
だが、その攻撃は届かない。
このキュベレイ・ストラティオティスIIは高火力機体であると同時にIフィールドバインダーを6基装着したハイパワーコンセプトなのだ。
キュベレイ・ストラティオティスIIのハイパワーやハイスピードなどの特化コンセプトはその特化している部分だけ見るとクィン・マンサIIよりも高性能である。
今回の機体ならハイスピードなら機動性と運動性、ハイパワーなら総合火力と防御力を備えている。
ただし、特化機であるからこその欠点もまた存在する。
ハイスピードは速度が速すぎるためにパイロットの掛かるGが半端ではないことや機動力を確保するための防御面の低さ、ハイパワーは対ビームに関しては恐ろしいほどの鉄壁を誇っているが反面機動性こそ最低限(アレン基準)保たれているが運動性は最悪の部類、そしてなによりIフィールドバインダーの重量を装甲を削ることで補っているため対実弾に関しての装甲はボールよりも劣るという極端な設計となっている。
ただ……残念なことにナイチンゲールにはシールドの内側に格納されているミサイルしか実弾兵器がないという致命的な相性の悪さなのだ。
「ファンネル!」
シャアは苦し紛れとも言えるファンネルを放ち、機動力故に防御力が薄いだろうという読みでハイスピードコンセプトのキュベレイ・ストラティオティスIIを狙う——のだが——
「そんなんじゃボクには追いつけないよ!駆けろキュベレイ!」
「何?!ファンネルで追いつけないだと?!」
そもそもファンネルの特徴にしてメリットは小型、高機動、隠密性に優れ、多方面から攻撃が可能だという点である。
にも関わらず機動力はなおキュベレイ・ストラティオティスIIのハイスピードコンセプトの方が優れているのだ。
「あら、まだ躱せるなんてさすが赤い彗星ね。今の脚の1つぐらいはもぎ取るつもりだったのに」
「なんなのだ。先程から私の動きを先回りするように……先を読んでいるとでも言うのか?!」
「ニュータイプなら当然でしょ?」
ハマーンが言っていることは正しいが全てではない。
ハマーンやプル達自身のニュータイプ能力ももちろんだが、プルツーの情報処理能力とPLS(サイコミュリンクシステム)と未来予測システムの連携によってバックアップされているからに他ならない。
(それにしても……アレンが言っていた持つ者と持たない者ってやつ、本当にあるのかも)
シャアが強くても、MSが最新鋭機であったとしても自分と上位のプル2人とアレンが作り出した最高にして最強のMSがあれば敵ではないと思っていたし、戦ってみた感想は——
(今ので終わらせるはずだったけど、完璧に避けられた。何が違うのかしら?それにアムロやシロッコを相手にしているプル達は大丈夫かな)
まだプルツーから報告がないということは戦闘継続中だということはハマーンもわかっている。
しかし、プル達はすでに家族みたいなものであるし、何よりアレンの作品である。失われることはなるべくは避けたい。主にアレンの好感度的な意味で……などと邪なことを考えつつ——
(私達の中で持ってると言われたのは私にカミーユとシロー・アマダ、それにプルとプルツー……後なぜか数字が飛んでプル12が微かに持ってる?って感じで、後は戦闘経験がないのにジュドー達らしいけど、一体持ってる基準はなんなのかしら……早くこっちを片付けないとね)