第三百六十五話
「112小隊は後退し、233小隊を支援せよ」
「36小隊は22小隊に合流し、以後22小隊として活動せよ」
「288小隊全滅、敵の危険レベルをレッドに認定。3小隊、6小隊、9小隊で対応せよ」
「侵攻エリア内敵全滅、制圧エリア拡大、データ共有」
ここはミソロギアの空母のMDコントロールルーム。
ずらりと並ぶ培養槽のようなカプセル、そしてその中に浮かぶのは少女……プルシリーズである。
そして先程から流れる声はカプセルの中は薬品で満たされているため声が発することができないので外部との連絡手段として用意されたサイコミュリンクシステムと連動させた電子音声である。
本当のところサイコミュリンクシステムを使えば外部のプルシリーズとも意思疎通が可能ではあるのだが対象者が増えれば増えるほど負担が増大するので負担を軽減するための配慮だ。
「総帥より知らせ。30秒後に艦隊より一斉砲撃があると予知された。カウントを表示する。警戒せよ」
今までとは違って電子音声ではなく、外部で情報管理を行っていたプルシリーズがマイクに向かって声を発する。
総帥というのは軍事行動中はサイコミュリンクシステム上ではプルシリーズのアレンの敬称が個々に違い、場合によっては敬称が長いために情報伝達にタイムラグが生じるためアレンの呼称を総帥に統一させている。
「……3、2、1。砲撃開始……終了。被害報告を」
「1から50小隊被害なし」
「51小隊から100小隊被害なし」
と次々報告が上がるが被害らしい被害はない。
艦隊の砲撃など予見されていればオールドタイプであったとしても回避するのは難しくない。ならば子供はどころかパイロットは皆ニュータイプを地で行くミソロギアに当たるわけがない。
「本艦に着弾はありましたがシールドビットIIにより反射に成功、被害なし。空母2番艦も同様です。母艦4隻は——」
ミソロギアの艦隊では空母は最後列に位置し、母艦は最前列に位置する関係上、距離が離れているためカメラによる目視は難しい。
そのためサイコミュリンクシステムで情報共有して状況把握を行っているのだが、共有する情報が多いと空母と違って人員に余裕がない母艦は把握に時間が掛かり、タイムラグが発生してしまっていた。
「——被弾なし。アッティスは言うまでもなく被害なしです!」
「総帥から命令、これより1分後に艦砲射撃を行う。標的の共有、射線に入らないように注意せよ。カウント開始」
エゥーゴやティターンズ、ネオ・ジオンも無能ではなく、レナスの動きから砲撃が来ると考えて事前に打ち合わせしていた通りに行動する。
現在の艦隊の回避行動は各艦の操舵士によるマニュアル回避が主流である。
なぜならシステムによるランダム回避を艦隊で行うとなると衝突しあわないようにように統制システムで艦隊の距離をコントロールしなければならない。しかし、知っての通り現在はミノフスキー粒子によって通信が制限され、それによって統制システムは使うことができないからだ。
これが単艦や少数の艦隊なら目視である程度補うことができるので問題にならない。
だが、今エゥーゴ達は——
「……ランダム回避?艦隊でそんなことしたら……あ、だから艦同士の間隔が広いんだ」
敵の動きを観測していたプルシリーズはずっとあった違和感がやっと解消され——
「あ、一応総帥に報告しとかなきゃ」
なぜランダム回避を無理して使っているのか。
シャアはアッティスによる精密砲撃の秘密がアレンのニュータイプ能力にあることは想像がついていた。
ニュータイプ能力は感情を読み取ることから未来予測ができ、ゆえに優れた射撃能力を持つ。ならその感情を排除することができたならあの精度の砲撃を行うことができないだろう……と考えたのだ。
「これぐらいは予想内だな」
そもそも今回の艦砲射撃は一方的に攻撃されているだけだと相手が勘違いして馬鹿な行動をされると面倒だと考えての行動なので命中するかしないかは問題ではないのだ。
「しかし、舐められるのも癪だし空母と母艦の砲撃も私が……いや、予定通りプルシリーズに任せるか」
全てを自分でやってしまってはこの戦いの意味はない、これはあくまでプルシリーズの成長とそのデータを手に入れる戦いなのだから、とアレンは自身を戒める。
「……さて、そろそろ時間か、さて、沈んでもらおうかラー・カイラム」
現場指揮官であるシャアやシロッコはハマーンとプルシリーズ上位ナンバーが抑えている以上、目障りなのは旗艦であるラー・カイラム、もっと具体的に言えば艦隊指揮をしているブライト・ノアである。