第三百六十六話
アレン達の艦砲射撃は連合軍(大まかに言えば連邦軍+ネオ・ジオンなのだが寄せ集めだから連合と呼称する)のものと比べるとお粗末なものだ。
総数は20に届かない。
元々母艦は輸送船の改造艦であり、あくまで最大戦力であるMSを輸送することが役割である。その武装はMS用対空砲のみというものであった。
空母に至っては大量のMSとMSの運用が前提であるため、敵を近寄らせることが念頭になく、対空砲すらも存在しない。
そしてアッティスは開発され、後付されたメガ粒子砲などは現代では旧式となっていて、艦砲射撃と言われる長射程では十分な威力を発揮できない。
今回の戦いに際して各艦には大型メガ粒子砲2門が備えられたが逆に言えば2門しか備えられなかった。
あまりに貧弱——通常であれば——
「命中率は50%か、ランダム回避を使われていることを考えればまずまずとするか」
6隻の艦が火球となって宇宙に消えた。
ちなみに50%というのはあくまで母艦、空母の射撃のみでアレンが操るアッティスのものは含まれない。
アレンの射撃がどうなったかというと当然ブライト・ノアが乗るラー・カイラムに命中した……したのだが——
「ここに来て新たな防御機構か」
アッティスが放ったメガ粒子はラー・カイラムの船首から放たれる光によって阻まれることとなった。
光とは言ってもサイコミュが放つようなものではなく、それは——
「ビームでビームを防ぐ、か。私も考えはしたが防御力の反面、コストパフォーマンスが悪いので見送ったが連邦という大組織なら運用は可能か」
連邦ではビームシールドと名付けられたものである。
「しかし、ラー・カイラムにしか施されていないところを見ると試作品を急遽実戦投入した、といったところか」
アレンの言ったとおり、ビームシールドはラー・カイラムのみに施された装備である。
試作品であるというのは確かであるが、実際のところはビームシールドの維持には膨大なエネルギーが必要であり、それを賄うことができるのが最新鋭大型艦あり、船体が長細くて範囲を狭めることができるラー・カイラムしか条件を満たせなかっただけの話である。
「ふむ、Iフィールドよりも防御面には優れていると試算で出ているが……試してみるか」
空母の艦長を務めるジャミトフに断りを入れてコントロールを得、アッティスのメガ粒子砲と共にラー・カイラムに照準を合わせる。
「さて、どこまで耐えられるかな」
死が溢れる戦場の中で、アレンはただただ楽しそうに笑うその姿はまるで子供のようであった。
「アレンは楽しんでるわね。こっちは理不尽ばかり感じてるのに」
「然り然り」
「なんでまだ生きてるんでしょうねー。この赤いの」
既に戦い始めて3分が経過。
MS同士の戦闘ならその程度の時間は掛かることはある。
しかし、ハマーンとプルシリーズ上位ナンバー2人を相手に3分もの時間を生きながらえるパイロットはそうはいない。
「理不尽を感じているのは間違いなく私の方だ!!」
今まで生きてきた中で1番確信をもって叫ぶシャア。
生きながらえているのは間違いはない。ただ機体が無事とはイコールではない。
ナイチンゲールの装甲はそこかしこが融解し、頭部もカメラこそ無事だが3分の1ほどはなくなり、手足は損傷か過剰な負担が掛かったスパークが走り、肩部のバインダーは両方失い、シールド?そんなものは既に無い、ファンネル?たかが10基のファンネルがハマーン達相手にそんなに長持ちするとでも?
ナイチンゲールの状態を一言で表せば満身創痍である。
「私達も結構被害受けてるし」
「然り然り」
「私のキュベレイがちょっと焦げたよ!」
ハマーン達は20基ほどのファンネルが落とされ、ハイライトタイプは腰の装甲が一部が変色している……ただそれだけである。
実質無傷と言っていいだろう。
「それは被害の内に入らん!!」
「まぁ楽しい会話はここまでにしておいて、そろそろその首……もらうわ」
腕部内蔵型のビームサーベルを発生させたハマーンだけが突撃する。
「私を舐めるな!ハマーン!」
それを迎え撃つべくシャアはビーム・トマホークを取り出す。
「はああ!!」
「そう来ると思っていた!」
シャアは時間が経つにつれハマーン達の動きが鈍ってきているのに気づいていた。
(あんな無茶な機体を長い間操縦ができるわけがない。他の2人はどうか知らんがハマーンは少なくとも普通の人間のはずだ。それならば疲労が出ても不思議はない。だからこそここで決める——)
「そんなのが当たるわけ——」
「ないのはわかっている!」
ナイチンゲールが内から外へ向けて横薙ぎに振るったビーム・トマホークはクィン・マンサIIを斬ることはなく、空を漂う。しかし、それが本命でもなかった。
いつの間にかもう片方の手にもビーム・トマホークが握られ、切り上げる。
「それも視えているわよ」
それも難なく躱し——
「さて、これで終わりね。今までありがとう」
そう告げると同時にナイチンゲールのがら空きとなっている腹部にビームサーベルを突き出す——