第三百六十七話
クィン・マンサIIのビームサーベルはナイチンゲールの胴体を貫いた。
しかし——
「——そう来ると思っていた!」
シャアは生きていた。
コクピットに影響が出ないギリギリで躱していたのだ。
そして——
「この間合なら——」
シャアの声に応えるようにナイチンゲールが最後の切り札を出す。
腰アーマーの先端部分から現れるマニピュレータ……隠し腕。
その手に握られているビームサーベルはクィン・マンサIIに——
「届く!!」
「えっ?!嘘!!」
それは不意の一撃。
未来予測システムは得られたデータから未来を予測するシステムである。
それゆえにアレンのように全くの未知から予測することは不可能。
ナイチンゲールの……シャアの渾身の一振りはクィン・マンサIIの身体を横薙ぎに斬り裂く——
「キャーーー!……なんてね」
「なんだと?!」
「惜しかったわね。私以外なら殺れたでしょうけど——」
クィン・マンサIIは上半身と下半身に分かれていた……分かれていたが、それはビームサーベルで斬り裂かれたのではなく——
「アレンはこういうことも想定して作ってくれているのかしらね。さすがアレン!さすがクィン・マンサ!」
「私としては殺意の1つや2つを贈りたいところだな」
ハマーンさえなんとかすればまだプルシリーズはなんとかなる……気がしないでもないような錯覚のようなものを抱いていたシャアは決死の覚悟でハマーンを討ちにいった。
しかし現実は無情である。
クィン・マンサIIは上半身と下半身を元に戻し——
「今度こそ終わり——「クワトロ中将を救出せよ!!」——おっと危ない」
上半身と下半身が分離させたついでに突き刺したビームサーベルを発生させている右腕も分離してナイチンゲールに刺したままになっていたそれを動かしてこんどこそ止めを刺そうととしたところに乱入者が現れた。
それはなんの変哲もないジェガン、そして止めた手段はミサイルの弾幕だった。
クィン・マンサIIがナイチンゲールから離していたために遠慮のない弾幕である。
「プルツー、もう少し時間稼ぎできなかったの?」
数が多いので自身のメガ粒子砲に加え、ファンネルでも迎え撃ち1発もクィン・マンサIIに届くことなく、全ては新たなデブリへと変わる。
「あちらの編成が変わって対処できなかった。すまない」
「編成が変わった?」
「マーク・レッド、オレンジだけで編成して部隊を局所的にぶつけられて抜けられた」
「なるほどね。だから——」
————こんな雑魚しかいないのね————
ジェガンは25機いた。
3対25、今更だが数だけで見れば絶望的な数字である。
この戦場において量は絶対ではないというのはミソロギアはもちろん連合軍にとっても認識されている。
「おしまい、と」
それを示す光景が目の前に描かれる。
躱すだけの才能を持つものはおらず、装甲なんて意味をもたず、シールドで防ぐ程度の才能をもつものはいたがその肝心のシールドなど意味をもたない。
全ては灰燼と帰す。
「さて、やっとこれで——……あれ?」
改めてシャアの止めを刺そうと向き直るとそこに確かにナイチンゲールは存在している。しかし——
「あぁ?!逃げるなー!」
そこにあるのはナイチンゲールのみ。
いつの間にかコクピットブロックは背中から射出され、いつの間にかシャアの専用機としてしていたデルタガンダムが回収して戦場から離脱していた。
「ちょっと待ちなさ——」
「大丈夫だとは思うがナイチンゲールから離れろ。ハマーン」
アレンから届いた思念。
突然ではあったがハマーンは躊躇も疑問も抱かずにその思念のまま従う。
少し離れたところでナイチンゲールは内側から爆発した。
「自爆なんてやってくれるわね……アレン愛してるわ!」
そして返ってきたのはプルシリーズの呆れた思念だけであった。