第三百六十九話
「また殺すの?」
「うるさい!」
「切ないね。悲しいね。悔しいね」
「子供が何を——」
「好きじゃないの?愛してないの?もう過去の人?愛ってそんなに軽いもの?」
「やめろ!!」
アムロは今、自身が想定していたものとは違う苦しい戦いを強いられていた。
それは1機のMS……MDにあった。
そのMDは多数いるオーディンに仕える戦乙女のデザインとは違った存在だった。
「それはララァじゃない!!」
そのMDの姿はララァの生き写しとしか言えない容姿をしてアムロと向き合っていた。
もちろんアムロが言っているようにララァのはずもない。
それは間違いないのだが……偽者でも作り物でもMDであったとしても、精巧に作られたそれはアムロに精神的に追い詰め、手が震えさせ、機体の動きが明らかに繊細さがなくなり、生き残っていたフィン・ファンネル達は薬を掛けられた虫のように弱々しく、そして容赦なく叩き落されていく。
それに飽き足らず、プル達は更に思念でアムロの心を攻める。
「神は容赦が本当にないな」
プル達はとりあえず動揺して今なら倒しやすそうなアムロを集中して攻撃を仕掛けることにしたために少し余裕ができたシロッコが呟く。
元々才能があったものの実戦で叩き上げたアムロはトラウマ型のニュータイプである。そしてその最大のトラウマは自分の手で愛する人を殺したこととその愛する人が別の誰かを庇って死んだことである。
それに対してシロッコは己の性格とその才能でここまで上り詰めたアレンと同じ才能型ニュータイプなため、隙を生み出すのは難しく、その分戦いには安定感があった。
とはいえ——
「数が減って2機だから楽、とは言える現状ではとても思えないがな」
10機の内、シロッコが相手しているのは2機となった。
つまり、アムロは残り8機、そして女性型MD1機、合わせて9機と戦っていることになる。
このままではそう経たないうちにアムロが討たれてしまうためシロッコも何らかの打開策を考えつかなければならないのだが——
「貴方はあまり怖くありませんね」
「心の何処かで総帥に屈しているのが視える」
「これでも本気なんだが……」
と口にはしたもののシロッコ自身もわかっていた。
以前の自分は野心や向上心が高かった。だからこそティターンズを乗っ取るように立ち回っていた。
今でもそれは存在するが、以前の自分が目指した世界を制して新たな世界を作る志は折れてしまっていると自覚していた。
なにせ神と崇める存在が本当の神ではなく、人間である。そんな人間が世界を制することなんてできるはずがない。
その神が旅立つということを知っている以上、やる気も出ないのは仕方ないことだろう。
しかし——
「だからといって舐められたままだと言うのは面白くはないな!」
今までのやる気の無さは何処へやら、打って変わってシロッコからは力強いプレッシャーが放たれる。
それに呼応するようにジ・オIIも加速する。
「今まで手を抜いていたのか」
「どちらかという私達が減るのを待ってた?つまり貴方は私達2人だけなら倒せると?」
「「笑止」」
その動きに対抗するように2機のキュベレイ・ストラティオティスIIも加速する。
この機体は両機共にバランスコンセプトである。
本命をアムロに絞り、シロッコに対しては抑えとして攻防速に優れたバランスコンセプトが選ばれた理由である。
「「ファンネルッ!」」
展開するのはそれぞれが5基と少ないがこれは補給されていないからという理由ではない。
実のところパノプリアが前線に出ていないのにはある理由が存在した。
現状パノプリアのミサイルコンテナはファンネルコンテナと変貌し、前線にファンネルを供給する役割を担っている。
敵が多い以上、ファンネルの消耗が激しいことを想定しての運用だ。
故に、最前線に居ながらもファンネルに不自由なく、そして遠慮なく使うことができる。
ならなぜ5基しか射出しないのかといえば、ファンネルの操作に気が取られることが多く、MSの操縦に若干だが疎かになる。数が揃っているなら問題ないが2機ではシロッコレベル相手にその若干の疎かは命取りになるため、パフォーマンスが落ちない程度の基数、それが5基なのだ。
「ふん、またその玩具か。芸がないぞ!」
とは言ってみたもののシロッコはファンネルが思った以上に厄介な存在だとわかっている。
シロッコはファンネルを相手にした経験が少なかったのでこの戦いに向けて、連合を組むことが決まってからはアムロやシャアと模擬戦を重ねて経験を得た。
しかし、ミソロギアとアムロやシャアが使うファンネルの運用法は根本的に違う。
アムロにしろシャアにしろファンネルは攻撃の手数や敵の死角から攻撃などの攻めの手段である。
だが、ミソロギアでは動きを制限するための弾幕、自機の死角を補う手段として使う守り的な運用がされている。
その理由は至極簡単である。
ミソロギアが戦う上で、局所的に負けることはあっても全体で負けることはまずありえず、なら時間が経てばミソロギアの方が有利になるという分析によるものだ。
「確かに能力もMSも1流だ。さすが神の尖兵——しかし——」
経験と信念が足らんな!!