第三百七十二話
ああ、そうそう、いくら戦場とはいえ、シロッコをあのまま殺すのはどうかと思って放流してプルシリーズとバトルしている。
正直、私がいつでも助けられるということが判明したためプルシリーズから真剣味が少し抜けてしまったのはデータ集めにおいて結構痛い。
ちなみにシロッコはいつでも殺されることがわかってやる気なくなり……というか心が折れてしまったようで回避に専念し始めてデータ取りに障害が出てきている。
「それでは困るのでルールを決めようと思う」
「ルールだと」
「次から私が攻撃を止める度にこちらのMSを1機撤退させよう」
そして負けたプルシリーズは訓練ではなく拷問に掛けることを伝達しておく。
日頃施している訓練や罰ゲーム、躾などは親の拳骨と同じように思いが込めている。それはニュータイプであるプルシリーズにも100%とは言わないがかなりの割合で伝わっている。
しかし、今回はその程度で終わらせない。
せっかくの殺し合い、プルシリーズを……家族を失う覚悟で戦いを、データを取るという私欲のために命を賭けているというのに、そのデータが模擬戦と変わらない、無意味な死のリスクを背負うなどあってはならない。
だからこそ、今回のそれは今までとは違う愛や教えもないただただ拷問を施すつもりでいる。
具体的に言えばスパイが捕虜となったことを想定した訓練のようなものだ。
例えそれで精神崩壊を起こす可能性があったとしても戦場で無駄に殺すよりはいいだろう。
「ほう、それは朗報だ」
口ではそう言うが、やはりやる気がなくなっているな。
「それだけではモチベーションが上がらないだろう。3機撃破、もしくはハマーンを撃破すればこの戦いを生き残らせることを約束しよう。ただし撃破対象は女性型MSはカウントしないから注意するように」
データ取りの改善に提案しているものの実のところ私としては面倒なことである。
一々シロッコ達の動きを気にかけなくてはならなくなり、MDの生産が少し遅れることになる。そして相応に疲労も伴う。
しかし、一時の疲労など貴重なデータ取りができるならなんのことはない。
「……あの悪質なMSと大量にいるMSか……」
「あと、緊張感を保たせるためにもう1つルール……3機撃破できずに戦いが終了した場合は最優先で殺すがな。ああ、後、5機撃破で初代のクィン・マンサのデータをやってもいいぞ」
コントロール奪取することができる以上は生かすも殺すも私次第だ。
「——それはそれは頑張らないといけないな」
「ふん、やる気が萎えてはいたが死ぬ気は無かったくせに何をいう」
シロッコはどう私と交渉しようか、なんとか逃げ切ってサイコフレームを搭載していない機体に乗り換えるか、いっそ後方指揮に専念するか、などと生き抜くために考えを巡らせていた。
しかし、サイコフレームを搭載していないMSに乗り換えらればそれなりのデータは取れるだろうがせっかくのトップクラスのエースが2流MSでの戦闘データなどどの程度役に立つというのか。
後方指揮?論外だ。
残された選択は私としても交渉しかないわけだが論外な要望を出されても時間の無駄なのでこちらの理想的な要望をまとめた。
ちなみに初代クィン・マンサのデータをやったところで問題はない。おそらく私達が地球圏から居なくなれば連合軍は解体され、今回の失態をお互いがお互いに押し付け合うのは間違いない。
となるとまた内紛が発生する可能性が高く、クィン・マンサのデータはティターンズ内で収まる可能性が高い……が、正直にいえばそもそもクィン・マンサは極一部の者しか操縦できないので知られたところでそれほど問題にならない。
何より地球圏から離れる私達には関係がないし、その程度で私に追いつけるとも思えない。(天才らしい傲慢)
それに——
「プルシリーズを5機撃破するような戦闘のデータと交換なら安いものだ」