第三百七十五話
「総帥より命令、戦線を構築し直す。指定されたレナスは後退せよ」
プルツーと空母から同時に命令が飛ぶ。
後退や撤退などの敵から離れることは本来難しい。
退くというのは無防備な背中を晒すことになり、味方との連携が大事になるのだが戦闘レベルのミノフスキー粒子散布下では難しい。
しかし、サイコミュリンクシステムで統率されたレナスは見事な連携をみせて所定の位置まで後退することに成功する。
もっとも、自分達も部隊を立て直したいという思惑もあって追撃は最低限に終わらせたということもあるが。
「続いて後方に設定されたレナスのパイロットは交代、そして後衛からストラティオティスと共に支援。前衛はストラティオティスIIが務めます」
レナスが後退したのと入れ替えて前進するのは今まで待機していたキュベレイ・ストラティオティスII。
「やっと出番か」
「総帥も大事な資源を無駄になさる」
「総帥の心配りだ」
「いや、絶対実戦データが欲しいだけだと思うよ」
「本懐」
前に出たのは戦場に出撃している30機中20機。
戦力の逐次投入は本来は下策。
逐次投入なんてすれば各個撃破される要因となる。
今更言うまでもないが本来なら、もしくは普通なら、だ。
「静粛に」
待ちに待たされ、やっと出番が来たと浮足立つメンバーを静かな一言とこの場にいる誰よりも強いプレッシャーで黙らしたのはプルツーだ。
「わりー。ちょっと調子に乗ってた」
「気持ちはわかるから少し話させた。しかし、敵も準備ができたようだぞ」
プルツーが言うように連合軍の再編は終わり、開いていた距離を詰めるように前進していた。
「早?!」
「さすが正規軍だね!……でも動きがぎこちないね!」
「当然だ。私が指揮官から潰していったからな」
再編自体は素早く済んだ。
しかし、プルシリーズが抱く感想と真実は違う。
これもシャア達が考えていた対策の1つの結果だ。
アレン相手に情報は筒抜けであることは予想がつく。そして情報を握ったなら指揮系統が混乱を起こすような何かが発生することを予感して事前に手配しておいたのだ。
ただし、戦場に出ている部隊長クラスはプルツーの狙撃とレナスとの戦闘で6割は戦死しているため再編はできたが、連携が開戦当初と比べると低下している。
「皆、わかっているな」
「「「もちろん」」」
「「「「敵対する者に滅びを」」」」
改めての開戦。
となると行われるのはMSの射撃戦である。
そしてそれは一方的な結果に終わる。
連合のビームはIフィールドに弾かれ、実弾やミサイルはビームによって落とされることはなかったが全て触手によって切断されて無効化されたり弾かれた。
キュベレイ・ストラティオティスIIのビームはプルツーの目標指定により射撃対象が被ることがなく1機に1射という効率の良さを実現。
結果60人の命が消え、そして1秒も経たずにまた60、更に1秒も経たずに60……と続き5度ほど繰り返した。つまり300機ほどを撃破してやっと止まった。
いや、止まったというよりは、射程内に敵がいなくなったと言ったほうが正しいだろう。
「あら、足が止まっていますよ。皆さん」
射程に入った途端に次々と撃墜されていく味方に怖気づいて近寄らなくなる。
実のところ、戦線を後退させたのには別の理由がある。
後退させる前は陣形こそ保っていたがレナスと連合軍はその数の関係で戦線が広がっていた。
その状態では連合軍はレナスにヘイトが向かってしまい、そうなると敵意が自分に向かないので射撃精度は下がり、自身を攻撃するつもりではない流れ弾の回避にも意識を割かないといけないので結果的に効率が落ちてしまうのだ。
「そちらから来ないならこちらから行きますよ?プルツーさん、よろしいですね」
「ああ、頼む」
プルツーの返事を聞き終えるとキュベレイ・ストラティオティスIIが前進を始める。
20機全機が陣形を崩すことなく、ゆっくりとした速度で。
そしてまるで磁石で同じ極同士でもあるかのように連合軍も同じような速度で後退していく。
「古代の戦国もののマンガにこんなシーンがあったけど、まさか現代でも見られるなんて思わなかったわ」
現代でもMSや戦車を相手にする歩兵などでも同じような動きが見れないでもない。
それは根本として同等兵器が存在しないから逃げながら時間を稼ぐという戦術的な意味がある。しかし現状で起こっているのは同等兵器(この場合は質は別の話)が存在し、数が上回っているにも関わらず怖気づいているだけなのだから正しく一騎当千の強者を相手にしている雑兵が逃げ腰になっている状態と同じである。
「あ、そういえばこれって敵前逃亡にならないのかな?」
戦闘継続可能な状態であるにも関わらず逃亡……とまではいかないが敵から逃げているのは事実である。(ちなみに答えは作者もわからない)
「……本当に規格外だな」
「あれと戦って勝たねば……少なくとも負けないようにしなければ未来がないとはなかなかハードルが高いな」
「全くだ」
2人は引きつった笑顔を浮かべつつ、軽い打ち合わせをして分かれた。
アムロはラー・カイラムへ、シロッコはジュピトリスへと向かう。
そもそもお互いが属する組織が別なのだから当然だ。
そしてもう少しでラー・カイラムに帰還が叶う、とそう安心した時——
「アムロ!」
突如ララァが叫び声をあげてアムロを突き飛ばす。
「ぐわっ?!ラ、ララァ?!」
突然襲いかかる衝撃で狼狽えながらもなんとか機体を安定させるがそれで安心、などと言えるほど状態ではない。
「会えて良かっ——」
『もう1度奪われ、さらなる高みへ上るがいい!!』
その思念はの発信者は誰か、もちろんアレンである。
そして——ララァの姿をしたMDは爆発が起き、ララァの面影どころかMDの面影すらも残さないほどの威力であった。
「……」
何が起こったのかアムロはしばらく認識できなかった。
雑音が混じるラー・カイラムからの通信が耳に入ってきてようやく全容が把握できた。
アムロ達を逃したのはただただ再戦させるためではなかったのだ。
プルシリーズに経験を積ませるという意味では意味がある。あるが、同じ状態、もしくはそれ以下の状態では意味が薄れる。
そこで考えたのはアムロのニュータイプとしてのレベルアップである。
1度休憩してしまえばララァは現在の状態を維持することはできないことをアレンは感覚的に理解していた。
ララァを心から望み、アレンに協力すればかなりの時間保てたはずだが、別れを決めてしまった以上は維持すらも難しいのだ。
それならば既に女性型MDから得られるデータというデータは全て入手してあるので最後の仕事としてララァの消失を派手に演出した。
「ララァ……お別れが言えなくて残念だ……でも、俺は前を向いて生きていくよ。…………でも、その前に——」
「アレン————お前だけは許さない!!」
「心地よい殺気だ。期待しているぞ?」