第三百七十六話
「ああ、そうだ。アムロが死者再現を行うことができたということはシャアも可能性が……いや、シャアのニュータイプレベルでは難しいか?それにナタリーと子供のせいでララァへの妄執は薄まっているから無理か?既にこちらの手もわかっている可能性が高いので動揺も少ない……いや、アムロが死者再現をしてくれたおかげで動揺しているかもしれないか。一応は試しておくとするか」
人の思い、人への思いとは想像を超える力があるようだしな。と思う程度にはララァの死者再現現象はアレンにとって衝撃的な出来事だった。
戦局には大きな影響を与えるようなもの(アムロを逃したのはアレンの都合によるものなのでノーカウント)ではなかったのは幸いだったが、アレンの心にはやはり戦場では何が起こるかわからないという警戒と好奇心が強くなった。
それが良いことなのかどうかはともかく。
「……やっと動いたか、怖気づいて動くに動けなかったのはわかるが遅すぎる気がするな——」
キュベレイ・ストラティオティスIIを前線に全て投入していないのには理由があった。
それは予備戦力というあやふやな存在ではなく、明確な意図があって待機していたのだ。
「——月駐屯部隊……アナハイムの犬共」
実のところ、連合軍も知らなかったが月駐屯部隊は援軍を出すという通信はフェイクであり、月駐屯部隊は開戦直後から戦場近くに潜んでいたのだ。
良く言えば奇襲すれば決定的な戦果を得られる、悪く言えば対抗勢力であるエゥーゴやティターンズなどと明確な敵であるミソロギアが消耗しあった後に名誉と功績を掻っ攫うという漁夫の利狙い。そういう考えであった。
月駐屯部隊……アナハイムはミソロギアの戦力を甘く見ていた。実験で数多の戦いを経てなお甘く見ていた。
ミソロギアが外へ露出させていたのはキュベレイ・ストラティオティスと旧式MSを改造したMDが主だった。
キュベレイ・ストラティオティスは少数、MDは多数確認されているし強いこと確認されているが戦場で数で押せば勝てると踏んでいた。
なにせ今回投入されている兵力は、艦が少ないため人員的には少なくなっているがMSの数を考えればチェンバロ作戦や星一号作戦などの戦争規模と同数、技術の進歩からするとそれ以上であることは間違いない。
いくら技術力に優れているという定評があるミソロギアとはいえ、戦争と言える規模の戦力をぶつけられては被害も相応にある——常識的に考えればそのとおりだろう。
しかし蓋を開けてみれば、開幕に核は使うし、気持ち悪いぐらい統制が取れているし、なんか天使だか女神っぽいし、数が想定より多いし、自爆するし、戦えば戦うほど強くなっているし、連邦の英雄とエゥーゴの英雄とティターンズのナルシストがボコボコにやられているし、何よりなんか化け物みたいなMSが大暴れしている。
奇襲すべく隙を伺っていたせいでそれらを客観的に見えてしまっているのだから怖気づいても仕方ないことだろう。
まぁそれでも20機のキュベレイ・ストラティオティスIIが前線に上がり、レナスも多少下がりはしたものの後方支援で艦隊から離れたことで千載一遇のチャンスと意を決して偽装したデブリを脱ぎ捨てて姿を現した。
その数はラー・カイラム級が3隻にアイリッシュ級が4隻、サラミス級5隻。
「一応私のことを最大限警戒しているという点については褒めておこう」
その総数は月駐屯部隊の総数と同じ、つまり全戦力を投入したことになる。
「それに5日もの間、宇宙を漂ってご苦労だったな」
奇襲をするには隠密性が重要だ。
開戦間近にデブリが戦場付近に突然近寄ってきては不自然で気づかれる可能性が高いため、5日前から今日にたどり着けるように計算して低速で遠回りで来たのだ。
もっともアレンに奇襲が通じるわけもなく、4日前には既に捕捉されていたので無駄骨でしかなかった。
「新型のMSがいるな。しかもガンダムタイプ……だが随分大きいな。ここのところ標準サイズでスタンダードな機体がトレンドだと思っていたが……私への対策と言ったところか」
大型の新型MS……その名もZZガンダム。
コンセプトが違いすぎるZガンダムの後継機である。
そしてその操縦者は——
「倒さなくちゃ。皆を守るために、皆を救うために……皆殺さないと!ハハ、ハハハハハッハ!!」
「これは……くっくっく、さすがアナハイム。ある意味予想通り、ある意味予想外なことをするな。それにしても随分猛っているな……イーノ・アッバーブ」
ジュドー達がミソロギアに所属する前に唯一断った仲間であるイーノ・アッバーブであった。
しかし、今の彼は温厚で仲間思いな面影はない。
彼はアレンの誘いを断って1月も経たぬ間に連邦兵という名のアナハイムの私兵によって拉致され強化処置を施されていたのだ。